最近の映画で言えば、アンソニー・ホプキンスがアカデミー賞主演男優賞に輝いた「ファーザー」(2020年、フローリアン・ゼレール監督)や、同じく同賞を受賞した「ザ・ホエール」 (2022年、ダーレン・アロノフスキー監督)などがそれに当たる。
どちらの作品も舞台劇の映画化で、ほぼ同一の空間のなかで濃密な人間ドラマが展開されていく。両作品とも、もとになる戯曲の評価も高かったためか、作品としての完成度は高い(特に前者は劇作家が自ら監督しているため、かなり趣向を凝らした映像も魅力だ)。
「ドライブ・イン・マンハッタン」も、このワンシチュエーション劇に相当する。ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港からマンハッタン島のミッドタウンまで、1台のタクシーに同乗することになったドライバーと乗客の会話で90分超の物語が進行していく。

作品の舞台は限られているが、卓抜したセリフとそれを演じる俳優たちの緻密な演技、それに念入りにつくり込まれた映像で、この「ドライブ・イン・マンハッタン」は、最後まで観ていてもまったく厭きることがない。
ワンシチュエーション劇は、低予算で製作できることも利点となるのだが、そのようなチープさもいっさい感じさせることなく、クオリティの高い素晴らしい作品となっている。
車内での小気味よい会話が楽しい
夜のニューヨーク、ジョン・F・ケネディ空港。到着したばかりの1人の若い女性(ダコタ・ジョンソン)が、キャリーケースを引きずりながらタクシー乗り場にやって来る。空港の配車係に行き先を告げて、タクシーに乗り込む女性。配車係から渡されたメモを確かめるドライバー(ショーン・ペン)。行き先はマンハッタンの「44丁目9番街と10番街の間」、ドライバーにとっても馴染みのある場所だった。
女性は座席に乗り込むと、目の前のニューヨークの観光案内を流すモニターを消す。口紅を引き直し、マフラーをはずしながら、深いため息をつく。バッグからのぞく携帯に視線を落とすが、手に取る素振りはなく、何か考えごとをしている様子だ。