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2025.03.20 08:30

業界トップで平均年収2000万円超。浜松でIT技術者たちがつくる理想郷

小寺敏正|エリジオン 代表取締役会長、最高経営責任者

小寺敏正|エリジオン 代表取締役会長、最高経営責任者

精度の高い3D CAD互換ソフトで、世界トップを走る浜松の企業「エリジオン」。“技術者の理想郷”を目指して創業された同社には、東大・京大卒の優秀な人材が集まってくるという。

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ギリシャ語で「理想郷」を意味する社名「エリジオン」は、技術者を軽んじる風潮に憤然としたひとりのITエンジニアによる日本社会への痛烈なアンチテーゼである。創業以来25期連続黒字で、正社員75人の年俸は平均2033万円。2024年には役員以外で4000万円台が5人、初めて新卒1年目で1000万円超えの社員も現れた。

3次元CAD互換ソフトの業界では世界シェア35%(CAD大手ダッソー・システムズ調べ)で、17%で2位の英国メーカーを大きく引き離す。浜松を拠点にグローバルで君臨する秘密を探った。

「他社のソフトはすべてクラッシュするか停止してしまった。エリジオン社製は2時間で完璧に互換し、ミスもない。本当に強靭なソフトだ」

かつて同社のソフトを採用した際にそう評したのは、米航空大手ボーイング社でスペースシャトルの製造を担うロケット部門のIT統括マネージャー。エリジオンのCAD互換ソフトDT(ダイレクト・トランスレータ)の評判はNASAにも飛び火し「精度が群を抜いている」「こんなに素晴らしいサポートを受けたことはかつてない」など、感謝を込めたメールが届いたという。

秘匿性、機密性の極めて高い国防の領域にどうやって入り込み「世界最高」の評価を得たのか。「うちの技術に対する信用がすべてだった」。エリジオン創業者の小寺敏正はそう胸を張る。

グローバル進出は、米フォードとの独占契約が端緒となった。創立間もないころ、フォードから「技術パートナーとして10年の独占契約を結ぶ性能テストに参加しないか」と呼びかけがあり、世界の10社と競合。3年に及ぶ審査の末、ジャガー、マツダなどフォードグループ全社を含む包括契約に至った。今ではトヨタなど国内で連結売上高が1兆円を超えるすべての製造業者をはじめ、IT、航空、自動車、家電など世界の4000社がユーザーとなっている。

CAD互換ソフトについて簡単に説明しておこう。1980年代から、製品設計のIT化でCADソフトが市場に乱立。しかし、ソフトメーカー間の互換性が不十分なため、ユーザーはデータの修正に膨大な時間をロスしていた。例えば、A社のソフトで描いた図面をB社のソフトで開くと、あるはずの部位が消え、つながるはずの線が離れるなど、バグや変換ミスが無数に発生する。「互換ソフトがあれば、多くの人が喜ぶはず。ニッチだがグローバルに展開できる可能性がある」。小寺の直感が各メーカーのCADを橋渡しする互換ソフトの開発につながった。

昭和のサクセスストーリーを捨てて

その出発点は1984年、小寺の最初の起業にさかのぼる。福井県に生まれ、冬の毎日を雪かきに追われる父を見て育った小寺は、東京大学工学部を卒業した後、就職先に「雪のない温暖な地」を求め、浜松のヤマハ発動機に入社した。3年目でマリン事業部のプロジェクトリーダーを任され、充実した社会人生活を送っていたが、ある日、大学の同窓会で互いの給料の話になってがく然とした。年収300万円を超えたばかりの小寺に対し、大手銀行や商社勤務の友人は600万円台、外資系企業は1000万円以上だという。「製造業は軒並み低かった。技術者が日本のものづくりを支えているのに理不尽だと思いましたね」。

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文=秦 融 写真=小田駿一

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