ドライバーが「今夜はお客さんで最後だよ」と声をかけると、女性は「私は当たり?」と問い返す。「ああ、大当たりだよ」とドライバーが答えると、女性は機転を効かせて「賞品は?」と切り返す。こうして最初の会話から、2人の間に小気味の良いやり取りが交わされていく。
ドライバーが「今日はツイてない日」で近場を行ったり来たり、そのうえ支払いはクレジットカードばかりでチップもろくにもらえないとぼやき始める。ドライバーが「大当たり」だと言うのは、そういう事情があったからだ。

あとで彼女の仕事がコンピュータのプログラマーとわかるのだが、この場にはすでに不思議なケミストリーが漂っている。
「家はマンハッタン?」「ええ」「服装でその人がわかるんだ」「例えば?」「自立している」「なぜわかるの?」「慣れた感じで乗り込み、いきなりモニターを消した。この街を知っているからだろう」
このような様子でドライバーと女性のやり取りは続いていくが、2人の表情を見ながら聴く車内の会話はとても気が利いていて楽しい。
しかし女性の携帯に「恋人」からのメッセージが続々と届き始めると、状況は少しずつ変わってくる。「いつ家に着く?」というメッセージに「遅くなりそうだから別の日にしない」と女性が返信しても、さらに「君のピンクが必要だ」というようなセクシャルなメッセージまで届くようになるのだった。

車窓からの風景もキーポイント
「ドライブ・イン・マンハッタン」には、特に際立ったストーリーはない。なぜなら、ほとんどタクシーの車内に限定されているし、このようなワンシチュエーションの映像作品によく登場する過去を振り返る回想シーンもまったくない。ひたすら2人の会話で物語は進行していくのだが、前述したように、これがまったく退屈することがない。練りに練られた会話や俳優たちの細やかな演技もそうなのだが、バックミラーに映る女性の眼差しやドライバーの指の動きなど、差し挟まれるディテールの映像がとてもスリリングな展開を醸し出していく。