海外

2025.02.13 09:30

「AI創薬」で注目の中国新興XtalPi、EV向け「全固体電池」開発支援へ

中国深セン市(Shutterstock.com)

中国深セン市(Shutterstock.com)

深センに拠点を置く人工知能(AI)や量子技術を活用したデジタル創薬のスタートアップ、XtalPi(晶泰科技、クリスタルパイ)は、2024年6月に香港取引所に上場し、9億香港ドル(約180億円)を調達した。

マサチューセッツ工科大学(MIT)出身の中国人量子物理学者、温書豪(ウェン・シュハオ)らが共同創業した同社の時価総額は現在、約248億香港ドル(約4830億円)に達している。2015年に設立されたクリスタルパイの投資家には、テンセントやグーグル、ソフトバンクなどが含まれる。同社は、上場までの約8年間で総額7億3200万ドル(約1152億円)の資金を調達し、最も資金力のあるAI創薬スタートアップの1社になっていた。

クリスタルパイは現在、米国のファイザーやジョンソン・エンド・ジョンソンなどの製薬大手を顧客としている。同社を率いる44歳の温は今後、電気自動車(EV)用バッテリーや太陽光パネル向けの新素材開発に事業領域を拡大していくと述べている。

クリスタルパイは、2016年にファイザーが主催した創薬プログラムに参加したことをきっかけに、知名度を急上昇させた。温のチームは、AIと量子力学による計算を活用して、医薬品開発に適した分子構造を見つけるプログラムを開発した。その結果、このプログラムは非常に高い精度を示し、まだ創業間もないクリスタルパイは、ファイザーと10年間のパートナーシップ契約を結んだ。

同社の創薬支援テクノロジーはその後、2021年末に新型コロナウイルス向けの飲み薬として初めて米国で承認を受けたファイザーのパクスロビドの開発につながった。クリスタルパイは、この新薬の開発で結晶構造の特定を支援し、通常は数年かかるプロセスを6週間に短縮したと報じられた。

温が創薬に取り組むきっかけとなったのは、中国に住む親類が肝臓がんの治療薬を安価に入手できるよう手助けをしたときのことだった。彼は、米国と中国の医薬品開発の進歩レベルに大きな差があることを痛感し、中国のがん患者の多くが輸入薬に頼らざるを得ない現状を目の当たりにした。その結果、温は、自身の専門分野である高度な数学的方程式を使って分子の挙動を研究し、このテクノロジーのギャップを埋めたいと考えた。

2015年に温は、MITのポスドク仲間の2人と共にクリスタルパイを設立した。アジアでは数少ないAI創薬企業の1社であるこのスタートアップはすぐに投資家の注目を集め、テンセントや中国の著名投資家ニール・シェンが率いる紅杉資本(旧セコイア・チャイナ)、5Yキャピタル、グーグル、ソフトバンクのビジョン・ファンド2などから資金を調達した。
次ページ > アルゴリズムで創薬を迅速化

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事