AI

2024.01.24

ラトビア人科学者が設立したAI創薬企業「インシリコ」の強み

Alex Zhavoronkov(C)Insilico Medicine

香港とニューヨークに拠点を置くInsilico Medicine(インシリコ・メディシン)は、人工知能(AI)を活用した新薬開発のレースで他社を圧倒したと主張している。

「我々は、17もの前臨床候補を創出した。これは、どの企業も成しえていないことだ」と、同社の創業者で共同CEOのアレックス・ザボロンコフ(Alex Zhavoronkov)は話す。同社には、ウォーバーグ・ピンカスやQiming Venture Partnersなどのトップクラスの投資家が出資している。

「すべてのパイプラインのうち、これまで失敗したのは1件だけだ。そのプログラムも、後に再開して前臨床候補品の開発に成功した。我々の成功確率は非常に高い」と、モスクワ大学で物理学と数学の博士号を取得したザボロンコフは言う。

インシリコがAIを使って開発した新薬候補には、ビリオネアのマッシミリアーナ・ランディーニ・アレオッティとその一族が所有する非上場の製薬会社メナリーニ・グループ(Menarini Group)が関心を示している。今月初め、インシリコはメナリーニの子会社であるステムライン・セラピューティクス(Stemline Therapeutics)に乳がん治療薬候補のライセンスを5億ドル(約740億円)以上で供与する契約を結んだ。

契約では、ステムライン社ががん治療薬となり得る新規分子を世界中で開発・商品化する独占的な権利を保有することになる。同社は、インシリコに前払い金1200万ドルを支払い、残りは規制や商品化のマイルストーンに基づいて支払われる。

メナリーニのCEOのエルシン・バーカー・エルガンは、インシリコの生成AIプラットフォームが業界で最も先進的なものの1つだと考えている。「生成AIの分野には多くの企業が参入しているが、インシリコの能力には、強力なターゲット発見エンジンやAIによる分子設計、臨床開発最適化ツールなど、エンド・ツー・エンドのAIプラットフォームが含まれている」と彼女は述べている。

AI創薬はまだ黎明期にあり、この乳がん治療薬候補をはじめ、インシリコのパイプラインにある他の候補薬も、市場に出ることはないかもしれない。AI創薬は、医薬品開発の初期段階における時間とコストを削減することが可能だが、成功した医薬品はまだ誕生していない。英国に本拠を置くExscientiaやBenevolentAIなどは、臨床試験で失敗した候補薬の開発を破棄している。
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編集=上田裕資

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