Web3が経済学では解けない難題に挑む

(写真左から)ブランドン・ポッシン、福原正大、泉征弥

元外交官が挑む「能力革命」

石破政権がブロックチェーンやNFTの活用を推進するなか、「日本はWeb3プロジェクトの開発に最も適した場所のひとつだ」と考え、福岡を拠点に活動するアメリカ人起業家がいる。「分散型科学」(DeSci)に取り組むMeritoのCEO、ブランドン・ポッシンだ。

24年8月に設立したMeritoが目指すのは、クラウド、AI、ブロックチェーン技術を組み合わせた知的財産(IP)のマーケットプレイスだ。大学の研究室や独立研究者などの「IPクリエイター」と企業の研究開発部門や投資家などの「IPスポンサー」を、日英両言語を用いたプラットフォーム上でつなぐことで、IPの収益化と科学の発展を支援する。

外部委託を受けて研究を行う際には受託研究契約書(SRA)を交わす必要がある。Meritoは日本国内の100種類以上のSRAテンプレートを用意し、SRAのオファーを効率化する。さらに、SRAの日付と時刻はブロックチェーンを用いたデジタルデータで証明する予定だという。

しかしなぜ、日本の科学技術の発展に寄与したいと思ったのか。きっかけは、元外交官という異色のキャリアにあった。
 
ブランドンはMerito設立の直前まで、米国大使館で日米科学協力プログラムや新興技術投資を指導していた。日本の大学や企業、投資家らと関係性を築くうちに、日本の学術界と産業界との間には大きなギャップがあることに気づいたという。

「日本企業は、日本の大学を不透明なブラックボックスとして見ている。大学側も企業とのつながりが不足していて、多くの研究が行き詰まっている。情報の架け橋となるマーケットプレイスがあれば、研究をビジネスにつなげたり、スタートアップの創出を促進したりできる」
 
設立して間もないMeritoだが、サイト上にはすでに楽天をはじめ10近い企業などの科学プロジェクトが掲載されている。24年11月には、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子が同社の科学諮問委員会に参画することが決まった。「アカデミアがもつ知財と、そこに価値を見いだす人をつなぐことで眠っている多くの知財が有効活用され、イノベーションが推進されることを期待している」と山崎は話す。
 
Meritoという社名は、能力主義を表すmeritocracyという単語から来ている。「従来の資本主義はゲートキーパー(門番)によって歪められることが多く、新規参入者へのチャンスが限られている。特にアカデミアの世界では年齢や性別による序列が与える影響が大きい。障壁を打破し、機会をより広く分配すること。日本の研究者がグローバルな資金提供者とつながり、新たな製品や治療法が市場に届くこと。これが、私が考える成功です」

今回取材した起業家は皆、Web3を活用したインパクトの創出に力を入れている。一方で、昨今の仮想通貨の価格高騰などを受けて、「Web3は投機的なもの」という印象を抱いている人がいるのも事実だ。日米両政府がWeb3に前向きな姿勢を見せるなか、「25年からは、Web3業界にとって生き残りをかけた2年間になる」とIGSの福原は言う。

Web3は、課題が山積する時代のゲームチェンジャーになれるのか。今まさに、その本質的な価値が試されている。
ブランドン・ポッシン◎米バージニア大学で学士号を取得。チリとブラジルの大学で客員学生を務めたのち、外交官としてパキスタンやペルー、アルゼンチン、インドネシアの米国大使館に勤務。2021年から24年まで東京の米国大使館で日米科学協力プログラムや新興技術投資を率いた。24年にMeritoを創業しCEOに就任。

ブランドン・ポッシン◎米バージニア大学で学士号を取得。チリとブラジルの大学で客員学生を務めたのち、外交官としてパキスタンやペルー、アルゼンチン、インドネシアの米国大使館に勤務。2021年から24年まで東京の米国大使館で日米科学協力プログラムや新興技術投資を率いた。24年にMeritoを創業しCEOに就任。

文=瀬戸久美子 写真=尾藤能暢

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