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Web3が経済学では解けない難題に挑む

(写真左から)ブランドン・ポッシン、福原正大、泉征弥

(写真左から)ブランドン・ポッシン、福原正大、泉征弥

2025年1月24日発売の「Forbes JAPAN3月号」では、3特集を一挙掲載!第1特集は「インパクト100」。社会課題の解決と持続可能な成長を両立しポジティブな影響を社会にもたらす「インパクトスタートアップ」や、社会・環境課題の解決と運用収益の両立をめざす「インパクト投資」をはじめ、世界も注目する「日本のインパクトエコノミー」最前線にフォーカスしている。

「日本のインパクト・エコノミーの未来を創る100人」企画をはじめ、ポール・ポルマン(元ユニリーバCEO)独占インタビュー、ノーベル経済学賞受賞者サイモン・ジョンソンへのインタビューも掲載している。


2024年9月中旬、蒸し暑さが残るシンガポールの空港に降り立ったアルジェリア出身のアンファル・ブルイナは高揚感に満ちていた。渡航の目的は、イーサリアムのグローバル・ハッカソンイベント「ETHGlobal シンガポール」への参加だった。ブロックチェーン技術などを基盤とする分散型インターネット「Web3」に深くかかわってきた彼女にとって、ハッカソンへの参加は社会課題解決のためのユースケースを模索する絶好のチャンスであり、夢への一歩を飾る舞台だった。

彼女の心が充足感に満ちた理由はほかにもあった。「ONGAESHI(オンガエシ)」という日本語を冠した奨学金制度を活用し、シンガポールへの渡航費といった金銭的な壁を乗り越えることができたのだ。
 
ONGAESHIとは、「寄付に代わる、新しい教育支援の形」としてInstitution for a Global Society(以下、IGS)が23年10月にリリースした人材育成・採用一体型サービスだ。NFT(非代替性トークン)化された「学ぶ権利」を購入した人(スポンサー)が、専用のアプリを通じて新たなスキルを学びたい人(タレント)にNFTを貸し出す。学び終えたタレントが所定期間内に就職や転職をすると、スポンサーには人材紹介フィーの一部が「連帯貢献金」として還元される。すでに300人以上の教育無償化を実現した。

ONGAESHIの斬新さは、お金を出す人ともらう人という構図に、連帯貢献金というスポンサーへの還元を取り入れた点にある。ブラックロック出身の経済学者で、ONGAESHIを開発し現在は日本での運営を手がけるIGS会長CEOの福原正大は言う。

「従来の寄付は、経済的に不安定な状況下では寄付者や寄付額が減ります。経済学的には合理的な発想です。一方、寄付によって経済的なインセンティブを得られる可能性を組み込めば、投資目的で寄付をするプレイヤーが現れます。寄付額が増えて教育格差の解消につながるのなら、そのほうがいい」
 
このONGAESHIの仕組みを応用したのがONGAESHI奨学金だ。26カ国から160人以上が応募し、上位5人にはハッカソン期間中の宿泊先の提供や最大250 米ドルの渡航費補助のほか、奨学生専用コミュニティに参加する機会が与えられた。冒頭で紹介したアンファルは言う。

「奨学生コミュニティへの参加を通じて意欲的な人たちとつながり、コラボレーションと相互成長を促進することができました。さらに、奨学金は新たな労働市場への扉を開いてくれた。将来はサイバーセキュリティとブロックチェーン分野のリーダーとして、Web3をより安全で誰もが利用できるものにしていきたい」
 
ONGAESHIは、いわば従来の資本主義に対する挑戦だ。福原にとって、ブラックロックで過ごした10年間は、フランスの経済学者トマ・ピケティが説く、不平等を引き起こす資本収益率の大きさを肌身で感じるには十二分な時間だった。そんななか、Web3に興味を抱いたのは「分散的で高度に設計された(新しい貨幣である) トークンが資本主義を進化させるのではないか」という思いからだったという。

「ブロックチェーンの強みのひとつは、伝統的な貨幣の枠組みでは設計が困難だったインセンティブや相互作用の仕組みをトークンとして導入できる点にあります。Web3を使って、利益を得た人たちがお世話になった人や第三者に当たり前に『恩返し』できる社会をつくることができれば、資本主義社会はより良く回ると信じています」
福原正大◎三菱UFJ銀行に入行後、仏INSEADでMBA、HECパリで国際金融の修士号を取得。バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック)の最年少マネージングダイレクターや日本法人取締役を経て2010年にInstitution for a Global Societyを設立。24年6月より同社代表取締役会長CEO。博士(経営学)。

福原正大◎三菱UFJ銀行に入行後、仏INSEADでMBA、HECパリで国際金融の修士号を取得。バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック)の最年少マネージングダイレクターや日本法人取締役を経て2010年にInstitution for a Global Societyを設立。24年6月より同社代表取締役会長CEO。博士(経営学)。

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文=瀬戸久美子 写真=尾藤能暢

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