Forbes JAPANが主催する「WOMEN AWARD 2024」では、そんな閉塞した社会に風穴を開ける新たなリーダーを選出。
個人部門で「MenAsAllies賞」に選ばれたのは、一般社団法人Famieeの代表理事を務める内山幸樹。Famieeは法律上、家族として認められない多様な形態の家族に「パートナーシップ証明書」を民間で発行。ダイバーシティを阻む壁を技術力で突破し、社会に変革を起こそうとしている。
2019年に内山幸樹がFamiee(ファミー)を設立したきっかけは、その数年前に参加した「G1サミット」でたまたま受講したLGBTQ+のセッションだった。
内山は、ビッグデータ等の解析を行うIT企業ホットリンクの経営者でもある。創業13年で上場を果たし、結婚や出産した社員に祝い金を出すなど福利厚生を整えたが、LGBTQ+の社員に向けた制度は皆無だった。
「僕が気づいていなかっただけで、社内にもLGBTQ+当事者はいたかもしれない。その人たちに疎外感を味わわせていたのではないか。セッションで当事者の方々の声を聞いて、初めてそう思ったんです」
創業時の苦い思いも脳裏をよぎった。
「当時の僕は、エンジニアが寝る間も惜しんで仕上げた成果物にきつい口調でダメ出しばかりして、どんどん人が離れていった。その後自分なりに成長したつもりだったけれど、結果的に創業から20年近く、僕は人の心を無意識のうちに傷つける“加害者”だったのだと気づかされたんです」
それから内山は、LGBTQ+を支援する活動に参加。この頃、ブロックチェーン技術を用いたビジネスの研究開発を行っており、その技術を利用してウェブ上で家族関係証明書を発行することを思いついた。
Famiee設立にあたっては、ソニーの元CEO出井伸之らから出資を得たが、別の壁が立ちはだかる。多くの人に利用してもらうにはFamieeの証明書を採用する企業を増やす必要があるが、導入に踏み切る企業はなかなか現れなかった。導入企業が少なければ利用者も増えない。
「このジレンマを解決するには、多様な家族を認める社会をつくろうというビジョンを語り、共感者を集めるしかない」と、民間によるパートナーシップ証明書検討委員会を設立し、参加企業に仕様への意見を求めた。大企業が導入を決めたのを皮切りに、100近くの企業や自治体に採用が拡大。今後は、証明書発行の対象を異性のカップルにも広げる予定だ。
いつか法律で同性婚や選択的夫婦別姓が認められれば、Famieeは必要ではなくなるのか? 内山は首を横に振った。
「同性婚も選択的夫婦別姓も、一対一の性愛で結ばれることを前提にしていますが、夫や妻に先立たれたシニア層が仲間と一緒に住んだり、2組のひとり親とその子どもが同居して支え合うスタイルも家族であることに変わりない。しかし法律で多様な家族形態が認められるまでには時間を要する。法整備が追いつかない部分をカバーするのがFamieeの役割だと思っています」
今年、米国で非営利団体Famiee USを設立。法の枠を超えたサービスを世界へ広げていく。
うちやま・こうき◎1971年、富山県生まれ。東京大学大学院博士課程を経て、2000年ホットリンク創業。19年Famieeを設立し、21年より同性パートナーのためのパートナーシップ証明書の発行開始。22年Web3関連事業を行うNonagon Capital設立。