ライフスタイル

2024.12.04 16:15

秋から冬へ、この季節に恐怖を味わうミステリとホラーのおすすめ3作品

恐怖のショーケース「宵闇色の水瓶 怪奇幻想短編集」


さて、伝奇ミステリ、ホラー大作とスケールの大きな作品が続いたので、最後は短編のコレクションでしめくくりたい。『宵闇色の水瓶 怪奇幻想短編集』(新紀元社)には、作家として、そしてアンソロジー編者として恐怖小説のマエストロと呼ぶに相応しい活躍を続ける井上雅彦自選の悪魔の1ダース(つまり13編)が収録されている。



いくつか、さわりをご紹介しよう。写真や標本などの博物館所蔵品の目録という情報の断片から垣間見える稀代のトリックスターの実像(「私設博物館資料目録」)、落武者の噂を追って姿を消した編集長の足跡を追い、房総の漁村にたどり着いた取材グループは都市伝説の意外な真相に遭遇する(「飢えている刀鋩」)、ハロウィーンの晩、農家の寄り合い出かけると家族を偽る主人公が手を染めた闇バイトの目的とは?(「闇仕事」)、空から舞い降りてくる正体不明の物質、エンゼル・ヘアーをめぐり、好事家揃いの喫茶店の常連客たちがそれぞれの謎めいた思い出を語り始めるが(「天使が来たりて」)。

恐怖小説の真髄は短編にあるとよく言われるが、本作品集も収録作の多くが20頁にも満たない掌編からなっている。しかし、和と洋のオカルトが正面から火花を散らしてぶつかり合う「デモン・ウォーズ」のような堂々たる読み応えの中編や、作者の原点であるショートショートの数々も賑やかに軒を並べる。

メタフィクションやモキュメンタリー風、本格ミステリ、オマージュ、クトゥルー神話までもが飛び出すという趣向のオンパレードは実験精神と遊び心の顕れに違いないが、幻想と怪奇の迷宮を旅する読者には、うってつけのロードマップともいえる。

手練れの読者から初級者まで、あまねくおすすめしたい恐怖のショーケースだ。

連載:ウィークエンド読書、この一冊!
過去記事はこちら>>

文=三橋 曉

ForbesBrandVoice

人気記事