例えば、社会心理学の学術誌『Journal of Applied Social Psychology』に掲載された研究によれば、暴力的なテレビ番組に警告ラベルを付けると、逆に視聴者の「観たい」と思う意欲が高まることがわかった。常識とは反対のように思えるかもしれないが、これが人間の自然な心理的回路の反映なのだ。
研究によれば、私たちがダークなコンテンツに惹かれずにいられない理由として、以下の3つの要因が挙げられる。
1. 私たちの「影の自己」が表出を求めるため
心理学者カール・ユングによれば、「シャドーセルフ(影の自己)」とは、私たちの精神における無意識の側面で、抑圧された特性、思考、欲望、そして怒り、嫉妬、攻撃性のような、しばしば自分で無視したがる資質を含んでいる。だが、この「シャドーセルフ」は本質的にネガティブなものではなく、重要な役割を持っているのだ。私たちは犯罪、裏切り、失敗などの話を扱ったネガティブなコンテンツに触れると、自分の人格における影の側面とのつながりを感じることがある。メディアを通してダークな物語と関わり合うことによって、私たちは自分の「シャドーセルフ」を、ほんの一瞬かもしれないが表出させることができる。これがカタルシス体験、つまり抑圧された自己を解放することで精神的な浄化を行い、満足感をもたらすことがある。
しかし、この種のメディアを消費することが自分にどのような影響を与えるか、一線を引いて熟考することは絶対に必要だ。2021年に法医学心理学を扱う学術誌『Psychology, Crime and Law』に掲載された研究によると、衝動性レベルが高い人、メディアに対する感情反応性が高い人、メディアの内容に対するフラストレーションが高い人ほど、メディアに対し「状態としての怒り」の反応が高まりやすいことがわかった。