事業継承

2024.08.19 16:00

決算書の行間から社長の未来が見える

入山章栄 (早稲田大学ビジネススクール)× 安藤智之 (M&A works)

安藤:1つ目の質問への答えですが、丁寧に分析をするということはコストがかさむため収益が立ちにくいです。さらに、弊社では1つの案件に複数人がかかわるのでさらにコストがかさみます。
 
ただ、細かく丁寧に分析することが弊社と他社の差別化要因になっています。M&A仲介会社が乱立しているため、どの譲渡企業様も複数の仲介会社を天秤にかけられます。丁寧にやることは選んでいただける確率を改善するので、受託コストが低いのです。“お世話焼き”理論でいえば、私たちは売り手のお客さまが「人生をどうしたいか」というところまで入り込んでいきます。その結果、良い関係性でご依頼をいただけることが増え、良いマッチングができるようになります。多くのご依頼を担当者一人で抱えさせないことも、良い方向に作用しています。
 
そこで、2つ目の質問の答えにたどり着きますが、弊社では人材教育にかける時間が長く、1週間の業務時間のうち、5~10時間以上を勉強に充てています。一般的に、仲介会社の経営はコンサルタント数の増加が重視されていますが、私たちは人材を育てることに重点を置いています。しっかり勉強したほうが、より良いサービスにつながるからです。
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入山:経営者には、高値で売りたい気持ちがある一方で、事業や従業員を大事にしてほしいと願っています。ところが理想の買い手が見つからないから、悩んでいるわけですよね。その点、安藤さんは長期的な視点に立って助言をし、実際にハンズオンで汗までかくから、信頼関係が生まれている。信頼関係があるから、受注率が高まり、そこでコストを抑えて回す──。極めて斬新なパターンですね。

安藤:言い古された表現かもしれませんが、M&A仲介会社を経営することは「人の製造会社」を経営することではないでしょうか。仕組みをどれだけつくっても、同じことはできないと思っています。

入山:事業承継やM&Aは、「人間ドラマ」ですね。M&Aは失敗すると、関係者全員の人生や、会社の創業時の思い、歴史、伝統が失われてしまう。「さあ、次に行こう」ということができません。本来であれば、コモディティ化してはならないわけです。でも、「細かく丁寧に」というのは簡単で、行うのは大変。それもM&A worksは、売るほうと買うほう両方に入っている。中抜きを疑われるリスクもあるなか、信頼関係を獲得している点が、「人と人のM&A」のところで価値を出しているのだと思います。
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いりやま・あきえ◎早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得。19年より現職。『世界標準の経営理論』など著書多数。

あんどう・ともゆき◎金融機関を経て、2014年大手M&A仲介会社へ入社。新部署の立ち上げに参画、医療業界を中心に実績を積む。その後、同業他社にて、製造業、IT業、建設業、不動産業、設備工事業など成約、累計100件以上のM&A成約に携わる。21年に株式会社M&A worksの代表に就任。

文=フォーブス ジャパン編集部 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック/シナジー・アート 写真=小田駿一

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