これは、日本の地方銀行にも期待している役割の一つです。星野リゾートの星野佳路代表に教わったのですが、欧州の地方銀行は、融資の条件としてサクセッションプラン(後継者育成計画)を提出させるそうです。融資先がなくなると困りますからね。しかも、事業承継者をビジネススクールで学ばせることもあるとか。融資担当者にも「経営者」としての目線が必要なのです。
安藤:これは本当におっしゃるとおりです。元地銀マンとして申し上げると、「担保主義」の姿勢は問題があるでしょう。現状では、担保余力や、信用保証協会の保証枠の有無が融資判断の大きな基準になっていて将来の業績予測が苦手な金融マンは多いのではないかと思います。日本の地銀にも、欧州の地銀のような価値基準、将来を見据えた投資判断が必要だと思います。
入山:今ある会社や事業を次世代に譲りたいとき、ビジネススクールで学ぶことも有効な選択肢になると思いますが、それとは別に、シンプルに事業を譲渡する、あるいは外部の経営者を起用する場合は仲立ちするM&Aの役割が重要になりますね。
安藤:M&A仲介を筆頭にいろいろなM&A事業が出てきており、いい流れです。この流れが止まらないよう、「正しいM&Aのかたち」をつくっていくのも私たちの仕事のひとつと考えています。ただM&Aの情報を右から左に流すだけでも社会にとって価値はありますが、それだけだと大きな問題に発展する可能性があります。弊社にセカンドオピニオンを求めて来られるお客様がいますが、M&A成約ありきの仲介者が先導して“不平等契約”が成立してしまい手遅れになってしまったケースも。こうした悪質なM&Aは業界全体で正していく必要があります。
入山:なかには「回転率商売」のように案件を右から左へと流し、売り手にとっても不平等な条件で、しかも従業員のウェルビーイングも担保されていないこともあると聞きます。だからこそ、手間暇かけてフェアバリューを計算することの価値が高まります。フェアバリューで買う関係で、他社よりも高額になる場合もあるでしょうが、最適なパートナーリングになるので「三方よし」ですね。