欧州

2024.07.28 10:00

ロシアの軍人らが戦地での「スマホ禁令」案に憤激している理由

小型コンピューターとして戦場で必須に

ひとつの答えは、スマートフォンを禁止すれば士気に大きな悪影響が出るのが必至で、どのみち完全に実施することは不可能だから、ということになる。スマートフォンは日常生活に欠かせないものになっている。ウクライナ軍の歩兵の1日を追ったキーウ・インディペンデント紙の最近の記事によると、ある陣地では7人の歩兵が交替で歩哨に立つことになっているが、実際は「大半の兵士は機会があればもっと寝ようとし、起きている間は(偽装)ネットの下をぶらぶらしたり、コーヒーを飲んだり、スマートフォンで時間をつぶしたりしている」という。

家族と連絡をとったり、子猫の動画を見てリラックスしたりできることは、精神面で非常に大切なことだ。いささか奇妙な話だが、ウクライナの軍人の間ではスマートフォンゲームの『World of Tanks』がカルト的な人気を誇っていて、メーカー側が彼らのために募金キャンペーンを行ったほどだ。

携帯電話は各国の刑務所内でも、さまざまな対策が講じられているにもかかわらず広く使用されている。軍隊で使用を禁止しても同様にうまくいきそうにない。

だが、軍人がスマートフォンを必要とする理由はほかにもある。スマートフォンはたんなる通信手段ではなく高性能な小型コンピューターであり、とくに内臓の衛星測位機能によって能力を高めている。

米陸軍は2023年のレポートで、ウクライナでのスマートフォンの使用は「戦場での指揮、統制、通信、コンピューティング、情報、監視、偵察(C4ISR)を変革している」と説明している。

レポートでは、クラウドソースのデータを用いてウクライナでの戦争の状況をリアルタイムで表示するアプリ「Liveuamap」や、ロシア側が開発した、砲撃音から砲弾の発射地点を三角測量で割り出すアプリなどを例に挙げている(ちなみにウクライナ側は同様のコンセプトを、固定したスマートフォン数千台でロシア軍のドローン(無人機)を追跡するシステム「Sky Fortress」で、より大規模に実装している)。

エストニアの軍事ブロガー、WarTranslated(@wartranslated)がX(旧ツイッター)で紹介しているところによると、ロシアのある軍事ジャーナリストは新法案を辛辣に批判し、ロシア兵の間でスマートフォンは地雷原のマッピングやMavic型ドローンの操縦(おそらくコントローラーが不足しているためだろう)にも使われていると指摘している。スマートフォンは、機密扱いされていない軍事文書の転送、戦術についてのテレグラムでの安全なチャット、必要な装備品の購入にも使われていると説明している。
次ページ > 政権のプロパガンダを危うくする「生の声」

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

ForbesBrandVoice

人気記事