「マットレス開発の必要性を感じたのは、もっともコンペティティブな市場であるアメリカに挑戦したから。個別化仕様のアイデアも、東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルサポーターになり、眠りにこだわりの強い選手に満足してもらうために生まれました。かつて日本の自動車メーカーがF1に挑戦したのと同じです。最高峰を目指すなら非連続なところへのチャレンジ、それで今いるところから一歩先の世界が開けるのではないでしょうか」
世界進出のために上場を凍結
エアウィーヴは22年、年内に目指していた上場を凍結した。春にパリ大会のスポンサー契約獲得の内示があり、再び海外挑戦の道が見えてきたからだ。上場すれば、どうしても投資家に短期の成果を求められる。前回のアメリカ進出は、結果を急いで人材を育てる余裕がなかった。その反省を踏まえ、次はじっくり腰を据えて取り組むつもりだ。17年に資本を入れてくれた投資家からも、IPOした場合と変わらない程度の価格で株を買い戻したという。「次はロサンゼルスにお店を出そうと、昨年9月からわが社のナンバーツーが赴任して準備を始めています。出店の具体的な場所は未定。いい場所に出せるように、まずはパリ大会で世界に名前を売らないといけない」厳しい市場に挑む高岡に現状を打破するポイントをあらためて尋ねると、「突破口は、気づきから生まれる。気づきを得たければ現場に出ることが大切」と返ってきた。
「パリ・オペラ座バレエ学校の寮に寝具を提供していたことも今回の契約に結びつきましたが、そもそもバレエ学校へのアプローチを思いついたのは、子どもの小学校の行事に参加したからでした。入学式と卒業式を比べると、カメラを構える親が多いのは入学式。みなさん子どもの成長に大きな期待をかけます。それを見て、究極の学校に納入すれば一般消費者に訴求できると気づいた。オフィスに閉じこもっていたら思いつかなかったでしょうね」
この夏は3週間パリ入りする。選手村に設けたマットレスの個別化の相談をするフィッティングセンターで選手の対応をするほか、メディア対応もするという。アスリートや関係者の生の声を聞くことで、また次のブレイクスルーのタネに気づくかもしれない。高岡にとって、今年は暑い夏になりそうだ。
たかおか・もとくに◎名古屋大学工学部卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士号取得後、日本高圧電気に入社。1987年スタンフォード大学大学院修士課程修了。98年日本高圧電気社長(現 取締役)、2004年に伯父から中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)を引き継ぐ。