新規事業

2024.06.17 14:30

日本経済を救う新たな起業「出向起業」開拓者たちの挑戦

西田 誠(写真右)と奥山恵太(同左)

「東レ・JAXA(宇宙航空研究開発機構)共同開発の最先端素材を使い、吸汗速乾、汗ジミ防止など『過剰な機能』をもつTシャツは累計販売1万枚を超えるヒット商品となりました」

そう話すのは、MOONRAKERS TECHNOLOGIES代表取締役・西田誠だ。同社は東レ発の先端技術搭載の製品開発、クラウドファンディングを活用した受注生産と高速生産の併用システムで、アパレル・小売り店と共創したファッション産業変革事業を行う。人気漫画『宇宙兄弟』とのコラボをはじめ、国内外で20回以上のクラウドファンディングを実施し、累計2億円の支援を集めた。同社は2023年10月、東レや出向起業スピンアウトキャピタルなどから1億円の資金調達を実施。

1993年に東レに入社した西田にとって、同社は3度目の社内ベンチャーの立ち上げだったが、「今回は新たにできた『出向起業』制度を活用した。本当にやってよかった。社内ベンチャーと異なり圧倒的な自由度とスピード感がある」(西田)。

出向起業とは、大企業人材が退職せずに外部からの資金調達や個人資産で起業し、起業したスタートアップにフルタイム出向などのかたちで移籍し事業を行う仕組み。転籍扱いであっても、大企業から人件費分以上の出資を受けつつ、大企業に戻れる権利をもち、一時的退職の場合も補助対象だ。子会社・関連会社ではなく、出向元大企業の株式保有率が20%未満であることが特徴だ。

西田の出向起業を支援したのが、経済産業省在籍時代に「出向起業」補助制度を自ら企画し、22年9月に出向起業スピンアウトキャピタルを立ち上げた奥山恵太だ。大企業から出向起業する人や休職・辞職して起業する人にシード投資をし、スタートアップの裾野を急拡大させるVCと自らを位置付ける。

「本業とのシナジーが薄い、推定売上高が3〜5年で数百億円に届かない、不確実性が高いという理由で大企業では育てにくいタイプの新規事業がある。大企業では埋もれてしまうテーマだが、スタートアップとしてはキラリと光る事業案は数多くある。出向起業だと大企業の人材や知的財産、設備、ネットワークなどをはじめとした資産を活用できるため、機動的に事業を立ち上げやすい」(奥山)

西田は「出向起業家は新しいキャリアとして『ニホン・モデル』になりえる可能性がある。成功してモデルケースになりたい」と語る。奥山も「大企業内に眠る資産を解き放つことが、米シリコンバレーとも違う日本独自の起業エコシステムの創出になり、日本経済の活性化にもつながる。成功事例を一緒につくっていければ」と語る。出向起業先駆者たちの挑戦は今、始まったばかりだ。


西田 誠◎MOONRAKERS TECHNOLOGIES代表取締役/CEO。1993年東レ入社。20代でユニクロへ飛び込み営業し大型受注を獲得。3度の社内ベンチャーに成功した連続起業家。2023年11月に東レからスピンオフのかたちで独立起業(「出向起業」形式)し、現在に至る。写真右。

奥山恵太◎出向起業スピンアウトキャピタル代表パートナー。2010年経済産業省入省。同省で「出向起業」補助制度を自ら企画し、大企業等社員による資本独立性のあるスタートアップの起業を後押し。22年7月に経済産業省退職。22年9月、同社を設立・運用開始し、現在に至る。写真左。

文=山本智之 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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