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2024.07.19 15:00

気候変動に適応して「黄金期」へ。変革するシャンパーニュ地方

ルイ・ロデレールの副社長兼醸造責任者(Chef de Caves)。モンペリエの国立農学学院を主席で卒業後、カリフォルニアやオーストラリアのスパークリング・ワインのプロジェクトを経験。1993年に シャンパーニュに戻り、1999年にルイ・ロデレール史上最年少でChef de Cavesに。同社の世界各地のワイナリーの醸造にも携わる。

ルイ・ロデレールの副社長兼醸造責任者(Chef de Caves)。モンペリエの国立農学学院を主席で卒業後、カリフォルニアやオーストラリアのスパークリング・ワインのプロジェクトを経験。1993年にシャンパーニュに戻り、1999年にルイ・ロデレール史上最年少でChef de Cavesに。同社の世界各地のワイナリーの醸造にも携わる。

温暖化によりブドウ栽培の北限が上がったことで、英国や米ニューヨークなどかつては冷涼でワイン造りに適さなかった地域がスパークリング・ワインの産地として台頭。北海道からも良質なワインが生まれている。シャンパーニュでもブドウ栽培環境は大きく変わり、1961年から2021年までの40年間で平均気温は1.8℃上昇し、ブドウの収穫日も30年前と比べると平均で20日も早くなった。

気候変動の影響は、気温上昇だけでなく、霜やブドウの日焼けといった被害をもたらす。また、ワインの味わいやスタイルにも変化を及ぼす。「ブドウ栽培は一度植えたら結果がわかるのが20年後。短期的かつ長期的に将来を予測し、適応していく必要があります」とレカイヨン。

その一手として、ルイ・ロデレールは21年にメゾンの顔であるNVキュヴェを35年ぶりに刷新、新たに「Collection」として発表した。
 
シャンパーニュには、特定の年に収穫したブドウを100%使用し、ボトルにその年が記載される「ヴィンテージ」と、複数年のワインをブレンドしてつくる「ノン・ヴィンテージ(NV)」とがあり、後者が全生産量の約8割を占める。冷涼なシャンパーニュでは、ブドウがうまく熟さない年もあり、一貫した質と量を供給するにはNVが理にかなっていたからだ。

「それが温暖化により、より成熟したブドウが収穫できるようになり、ワインに熟度よりフレッシュさを求めるようになってきています。この状況を逆手に取り、毎年均一のものではなく、その年の個性を生かしたNVを造ろうとCollectionを考案しました」

気候変動を追い風にする動きはほかにもある。同じ理由で、シャンパーニュではスティルワイン(非発泡性)を造るのが難しかったが、熟度の高いブドウが収穫できるようになり、コトー・シャンプノワと呼ばれるスティルワインを造る生産者が増えてきている。ルイ・ロデレールでも14年から実験的に造り始め、18年ヴィンテージから白と赤をリリースした。

「このワイン造りにはブドウの果皮も使うので、この土地らしさ全てを表現できると考えました。かつてはシャンパーニュもスティルワインの産地でしたので、そのルーツに戻る“新しい”チャプターとも言えます」
ルイ・ロデレールが所有する、 メゾンにとって歴史的に重要なヴェルズネイ村の畑。チョーク 土壌のなだらかな斜面の中腹にあり、オーガニック農法によりピノ・ノワールを栽培。シャンパ ーニュのなかでも最高品質のものが収穫される場所とされ、「クリスタル」の構成要素の鍵としてブレンドされる。

ルイ・ロデレールが所有する、メゾンにとって歴史的に重要なヴェルズネイ村の畑。チョーク土壌のなだらかな斜面の中腹にあり、オーガニック農法によりピノ・ノワールを栽培。シャンパーニュのなかでも最高品質のものが収穫される場所とされ、「クリスタル」の構成要素の鍵としてブレンドされる。

多様なワインを生み出し、黄金期へ

シャンパーニュ地方は、半官半民のワイン生産同業者団体であるシャンパーニュ委員会の主導の下、サステナブルな成長のために、フランスのワイン産地としていち早く対策を打ち出した。具体的には、CO2排出量削減の目標設定、そのためのボトルの軽量化や廃棄物のリサイクル、パッケージの簡素化などで、例えば、ボトル1本あたりのカーボンフットプリントは、00年以降に20%削減された。
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文=島 悠里 写真=田熊大樹

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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