事業継承

2024.07.08 14:15

「地球の歩き方」の救世主、学研グループ 元バックパッカー社長の組織編集術

もう、下を向かないで行こう

──既存の『地球の歩き方』の体制やルールを変更しなかったのでしょうか。

新井 上場企業グループですので、ガバナンス面での縛りはあります。たとえば四半期決算だったり、書類手続きだったり、何事でもプライム企業としてのルールに従うことについては必ずやってもらうしかない。そこは苦労をかけましたが、それ以外は従来通りのやり方を引き継いでいます。

むしろ40年間、海外ガイドブックのトップブランドを作り上げてきた組織に学研が学ばせてもらい、どのようなシナジー(相乗効果)が生まれるかという期待のほうが上回っていました。

──株式会社地球の歩き方としてのスタート初日に、どのようなメッセージを社員に伝えたのでしょうか。

新井 まず、私自身が学生時代から『地球の歩き方』にお世話になってきた人間だと伝えました。そして、もう下を向かないで3年後、5年後に向けて、力を合わせてやっていきましょうと、わりと楽観的に語りかけました。

──売り上げが9割減となった事業を引き受けることに、不安はなかったのでしょうか。

新井 経営不振と言っても、新型コロナという外部環境の変化だけで起きたことで、ブランドとかコンテンツの価値は、何も毀損されていません。コロナ前の数年は右肩上がりで推移していました。ですから「外部環境の回復」=「業績の回復」、とシンプルに考えていました。

ただ再びコロナや他の外部要因で、同じ目に遭ってしまったら、経営としてダメだとは思っていて、事業としてのレジリエンス( 弾性)を高めるために、海外ガイドブックの「一本足打法」はやめて、複数の柱を立てることを始めました。

10年後の姿を全員で描く、落下傘社長の手腕

──ご自身が育ててきた人材でもなく、それまで関わりのなかった組織体を、どうコントロールして経営しようと考えていたのでしょうか。

新井 確かに私だけ、落下傘で降りてきたのですから、不安に思う人もいたかもしれません。そこで私が呼びかけたのは、10年後の姿を34人の社員全員で描くということ。そこから逆算し、今するべきことを考えようと訴えました。

いわゆるバックキャストという手法ですが、10年後の未来を共有することは、ビッグ社から移ってきてくれた人たちに大きな意味を持つと思っていました。10年後も事業として存続させていきたい。だからこそみなさんに来てもらった、という学研グループのスタンスを明確に伝えたかったのです。

10年後となれば「本屋さんは少なくなるよね」「だったら電子書籍をどうする」といった、具体的な事業課題も共有できます。スタートして3カ月くらいは、10年後を考える機会を頻繁に作りました。
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