キャリア・教育

2024.07.16 15:00

ビジョナル南壮一郎が語る「夢」を現実にする方法

課題との出合いは人それぞれだ。個人の原体験がベースにあったり、身近な生活の困りごとをヒントにしたりする起業家もいる。一方、南は徹底した情報収集で課題を探しだす。まずは社会の構造変化や技術の進化について、国や研究機関のレポートを読んでリサーチ。そこでわかった点を道しるべに、市場から一次情報を直接取りにいく。

情報収集先は海外が多い。アメリカが最先端の事業領域なら海をわたって話を聞きに行く。業界トップ企業の現在の社員に会うだけではない。創業期にいた社員や投資家にもアプローチする。業界2、3位の競合企業の社員にも、なぜ自分たちがトップに立てていないかの原因を聞きに行く。

ひとつの事業を検討するのに会う人数は、国内外で数十人。その結果、いま自分たちが解決すべき課題ではないと判断したものも多い。逆に言うと、事業化したものは南が確信をもって始めた課題ばかり。準備で勝つのが南流なのだ。

「事業を始めたら調べる余裕なんてない。情報がなければ判断が遅れるし迷う。始める前に横断的に情報を取り切るつもりでやっているので、立ち上げた時点では誰よりも課題に詳しくなっています。そこが自分の競争優位性だと信じている」

南は「誰でもできるが、誰もやらない」と言うが、このスタイルは並外れた行動力があるからこそ実現したことを忘れてはいけない。現在は、これまでの人脈や知名度のおかげでアポを取りやすくなった。しかし、かつては相手にされないことのほうが多かった。それでも諦めずにアプローチを続けた。会社の代表アドレスにメールを送っても音沙汰がなければ、「社内メアドのパターンを分析して、担当者に当てずっぽうに送ったこともあるし、海外まで行ってオフィス前でずっと待ち伏せしたこともある」という。
ビズリーチ創業前には、プロ野球・楽天イーグルスの球団創設に携わった南。経営のイロハは、 ここで三木谷浩史や島田亨、小澤隆生らに学んだ。写真は2013年11月に楽天イーグルスが日本シリーズを初制覇した際に当時の仲間と撮ったもの。

ビズリーチ創業前には、プロ野球・楽天イーグルスの球団創設に携わった南。経営のイロハは、ここで三木谷浩史や島田亨、小澤隆生らに学んだ。写真は2013年11月に楽天イーグルスが日本シリーズを初制覇した際に当時の仲間と撮ったもの。

農業大学校理事長就任の真意

大きな成果を収めてきた南だが、見える景色は本当に変わらないのか。重ねてそう問うと、「感謝の思いが強くなった」と返ってきた。

「少し前に子どもが生まれましてね。赤ちゃんは自分では何もできません。その姿を見て自分の歩みもきっと同じだったのだと感じ、家族や仲間への感謝の気持ちが強く湧いてきました。ともに時間を過ごしてきた仲間やみんなの大切なご家族に、自らが感じてきた感謝を自らの行動でお返ししたい」

実際、行動の軌跡は刻まれ始めている。例えば、ビジョナルグループの全ての社員の子どもたちを1~2週間、海外のサマーキャンプに送る奨学金を私費で設立したのだ。
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文=村上 敬 写真=アーウィン・ウォン ヘアメイク=内藤 歩

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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