実際、世界のビリオネアたちはどんな会話を交わしているのか。下世話な好奇心からそう尋ねると、南はうまくかわした。
「特別なことはないですよ。ビジネスやお金の話はなく、スポーツやアートなどの趣味の話やお互いの国への質問が多い。スタインブレナーさんたちとの食事中には、『ショウヘイ・オオタニは日本ではどんな存在?面白い逸話は?』となり、『高校時代から曼荼羅チャートを書いて……』と目標設定と日米の教育の比較話で盛り上がりました」
自分たちが解決したい社会の課題は何か
ビリオネアが普通の人であることを強調するのは、南自身、資産家である意識が希薄だからかもしれない。ビジョナルが当時の東証マザーズ市場に上場したのは21年4月。23年12月にはプライム市場に市場変更し、その時点の時価総額は3146億円に達した。株式の3分の1強を保有する南は、日本有数の資産家である。しかし、本人に自覚は乏しい。「上場すると資産が可視化されます。ただ、それは実際に手にするわけでもない謎の数字です。仲間たちとつないできた会社の理念や社会に与え続けるであろうインパクトが評価されたものでしかない。個人として考え方や価値観は何も変わらない。仲間たちとともに、ずっと自然体でいたい」
そもそも南は会社を上場させるために起業家になったわけではない。自身のキャリア観をこう語る。
「ビジネスは、上場や時価総額で比べ合うものではないと思います。私が経営者として重きを置いているのは、自分たちが解決したい社会の課題は何かという問いです。課題を見つけ、仲間たちと時間や想いを注ぎ込み、事業づくりに励むこと。みんなと社会にインパクトを与え続けたい」
富を生むための手段として課題を解決するのではなく、課題解決そのものを目的として、その結果として富がついてくる──。この考えは起業家にとって必ずしも珍しいものではない。なぜ南は桁違いの実績を上げられたのか。要因はひとつではないが、南なりのユニークな事業づくりの型がある。その中心になるのが、解決すべき課題の探し方だ。