2024年春、南壮一郎は米国フロリダ州タンパにいた。MLB(メジャーリーグ)の名門、ニューヨーク・ヤンキースの春季キャンプを訪問するためだ。毎年この時期になると、キャンプ地のジョージ・M・スタインブレナー・フィールドには開幕を待ちきれない大勢のファンが詰めかける。ただ、南は観客としてスタジアムを訪れたわけではない。ヤンキース球団のオーナーグループの一員として、筆頭オーナーであるスタインブレナー家にあいさつに行ったのだ。
MLB公式サイトで南のオーナーグループ入りが報じられたのは、前年のレギュラーシーズンが開幕して間もない4月19日。日本人がオーナーグループの一員になるのは球団史上初めてのことだ。翌日には「MLBの球団オーナーになることは、私が物心ついた頃からの夢」と自身の思いをブログにつづった。
南は少年時代をカナダのトロントで過ごした。まわりは地元トロント・ブルージェイズの熱狂的ファン。野球小僧だった南もすぐに夢中になり、スタジアムに足を運んだ。当時、ライバル球団ながら気になる存在だったのが、スター軍団のヤンキースだ。選手以上に存在感を放っていたのは、“ザ・ボス”と呼ばれたオーナーのジョージ・スタインブレナー。良くも悪くも注目の的であり、南少年の夢はいつしか選手から「球団オーナーになること」に変わっていった。南は当時をこう振り返る。
「10歳のころには、『オーナーになりたい』と話していました。選手よりオーナーのほうがなれる気がしたんです」
念願がかなって、オーナーになったこと以上にうれしかったことがある。南のニュースを見て、世界中の仲間から祝福のメールが届いたのだ。
「小中学校のトロント時代や高校を過ごした静岡の仲間、米タフツ大学時代の仲間……。疎遠になっていた仲間も多いのですが、みんな嫌というほど私に夢を聞かされていたので、ニュースをみて、おめでとうと連絡をくれた。3日くらいほぼ徹夜で何百というメッセージの返信にかかりきりで、みんなの喜ぶ顔を思い出しながら、嬉しくて眠れませんでした」
縁がつながったのは旧友だけではない。ザ・ボスの後を継ぐスタインブレナー一家はビリオネア・ファミリー。オーナーグループの一員となったことで世界の資産家たちとも交流が深まった。