テクノロジー

2024.06.28 15:15

Apple Vision Pro、AIの真価と「空間コンピューティングの先」にある未来

AIの本質は「インターフェース革命」

空間コンピューティングはメタバースの世界観に必要な実装だと考えています。

メタバースに明確な定義はありませんが、多くの人がこれはメタバースですね!というコンセンサスは、「コンピュータが描き出す世界で生活する」というSFで描かれてきた夢の生活スタイル、世界観で、それに向かって人類は一歩一歩進んでいるんだろうと思っています。
(c) Cluster,Inc.

そして、コンピュータが描き出す世界では、その中のユーザーインターフェース、つまり「人間とコンピュータの関わり方」が人間的に自然であることがとても重要です。

そんな世界で、ボタンやキーボードでテキストを打ち込んでいるといった不自然な状況が今後も続くなんてことはあり得ない。

僕はAIの本質は、インターフェースの革命だと思っています。インターフェースとしてのAIが、人間とコンピュータのコミュニケーションに革命をもたらしていると。

人間がコンピュータやシステムを動かす際に、より直感的で使いやすい自然言語や身体言語、さらにはシチュエーションや文脈、空間全体を使えるようになることが、AIの最もイノベーティブな価値だという考えです。

クラスターでもそういったAIの活用を目指し、2021年に設立したメタバース研究所と社内のAI開発チーム、あわせて約10名の組織で取り組んでいます。メタバース研究所に最初にジョインした研究者はまさにこのAIの専門家で、最近ではICMLという機械学習のトップ国際会議に論文が採択されるなど、活発な研究活動を行なっています。

●目指すは「王様UI」。いずれAIを使うのも面倒になっていく

こうした組織を立ち上げた原点は、メタバースやバーチャルの世界、そしてコンピューティングの未来における最強かつ最終的なユーザーインターフェース(UI)は「王様のように振る舞えるUI=王様UI」だという考えにあります。

まさに人間ファースト。王様が身振り手振りで指示を出すだけで周りのAIたちが「はい、かしこまりました」と応答してくれる、なんだったら先回りして欲しいものを提示してくれるようなUIこそがあるべき姿だと、2016年にメタバースプラットフォーム「cluster」のアルファ版をリリースした時から、現在も活躍している初期のUI/UXデザイナーと議論し、提唱してきました。

すべての人類がバーチャルの世界やテクノロジーの価値を享受できる時代を想定すると、例えばシニアや障害のある人たちにも容易に操作できるといった「アクセシビリティ」の概念が出てきます。それは昨今のブームのように、チャット型でテキストを入力して操作する形ではないと考えています。

そもそも文章をちゃんと打ち込むのってめんどくさいですよね...。人間は、文章をきちんと書いて指示することが本当に苦手で、読み解くのも得意ではありません。文章の読み書きには高度なスキルが求められます。

いずれは「そもそもAIを使うのが面倒」といった感覚にもなっていく、というか、すでにもう若干そうなっていると思うんです。

人間にとっての自然なコミュニケーションとは、言葉やボディランゲージに状況や文脈が加わり、空間全体で「こういうのが欲しい」「あれなんだっけ?」と言えば、意図を汲み取ってなにかしらレスポンスを返してくれるというもので、人間がコミュニケーションしやすい相手はやはり人間です。

でも、そうなると、自分の欲求をさらけ出すのは信頼できる相手じゃないと嫌ですよね。

というわけでクラスターでは「身体性があって会話が主体となるAI」には絶対にニーズがあり、それこそが追求していくべきUI、これからの時代のコンピュータと人間のコミュニケーションのあり方だと考えて、新機能の研究開発を進めてきました。

そして昨年、生成AI、特に大規模言語モデルのブレイクスルーによって、構想してきたことがかなり実現可能になってきたので、clusterをご利用いただいている企業にお見せしたところ、数社で実際に導入していただけることになりました。

次ページ > 現実世界で起こる前の「壮大な社会実験」か──

画像=クラスター 構成協力=でんこ 編集=宇藤智子

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