●グローバル展開では、地域ごとの実装の違いもポイントに
そして、グローバルを見た時に、地域によってAIエージェントの実装が違うのではないかと考えています。クラスターでは今グローバル展開を推し進めていて、僕も頻繁に海外を訪れているのですが、当然、日本人が喋りやすいのは日本人なわけです。それは日本語ができる以上に、日本のカルチャーがわかってるからですよね。他の国の人たちにとってもそうで、USの人にとっては、USカルチャーがわかっている人のほうがしゃべりやすい。ただ、USカルチャーと一口に言っても、ものすごく多様ですよね。
そういった多様性を享受できるAIエージェントをいかに実現するか──。グローバル各地でのAIエージェント実装の難しさも非常に重要なテーマになってくると思います。
AIのもう一つの本質は「クリエイターアシスト」
AIが当たり前になった時代に、クリエイティビティがどう変わっていくのか、クリエイティビティを阻害してしまうんじゃないかと心配する声も少なくありません。僕は「人類のクリエイティビティをサポートする役としてAIがある」と考えています。
今流行している生成AIは、その名の通り何かを生成することに強みを持っていて、物理、僕の本では「アトム」と呼んでいますが、アトムに依存したものではなく、デジタルのものを生み出すことに特化しています。
大規模言語モデルは当然言語ベースですが、言語以外にも、画像、音声、身振り手振り、空間の誘導など、マルチモーダルな要素も重要です。ChatGPTの進化と並走する形で、Diffusionモデル(拡散モデル)というのがすごく盛り上がって、Stable Diffusionなど、従来のGANs(敵対的生成ネットワーク)と比べて明らかにすごい高品質の画像が生み出されるようになりました。最近ではその品質の高さでの、動画の生成も当たり前になってきました。
こうした生成AIの活用先として相性が良いのが、メタバースの世界です。
ゲームのようなプロ集団が作り出す世界ではなく、ユーザーが主体となって作り出す世界において、生成AIがユーザーをアシストし、様々なものが作り出される世界になっていく。そういった観点において、AIはとても重要な要素だと思っています。
●メタバース普及のカギは「制作コストを下げる」こと。AIと共に発展していく
「バーチャルリアリティやメタバースの普及には何が重要でしょうか? VRヘッドセットが安くなることでしょうか?」と聞かれることがあります。僕はいつも「今のメタバースの根本技術は3DCG、つまりコンピュータグラフィックスで、その制作コストを下げるのが普及のカギです」と答えています。
制作コストを下げるアシスタントとしてのAIの活用が、メタバースの普及において最も重要だと考えているからこそ、クラスターはいち早くAIのR&Dに取り組んできたのです。
例えば「カフェを作ってみたい」と思った時に、内装一つとっても、現実世界で作るのは業者に頼まないと無理でしょうし、何百万円というお金がかかります。でも、バーチャル空間だとそれが1人の手で作れてしまうんです。本当に素晴らしい体験ですし、この体験をあまねく人々に届けたいからクラスターは存在しています。
ただ、まだまだ作るのは大変です。「こんな感じのカフェが欲しい」「こんな雰囲気のアバターが欲しい」と思っても、ゼロから作るとなると3DCGの技術が必須になります。
指示するだけで、オブジェクトやギミック、アバターやワールドが作れるというのが、メタバースとAIの理想の体験であって、そのような形でAIとメタバースが相互に発展していくと考えています。
コンピューティングの第5波とは?
それでは最後に、描いている「コンピューティングの第5波」についてお伝えして終わりたいと思います。第5波はコンピューティングの最終形態として、コンピュータが空間に遍在する世界から、人間の脳自体がコンピュータとつながる、コンピュータになるという「ブレインコンピュータ時代」がやって来ると考えています。
パーソナルコンピュータからモバイルコンピュータ、そしてスペイシャルコンピュータからブレインコンピュータの時代へ。
人類はそういう未来を目指すことになると考えているのですが、詳しくはまた別の機会に...。
連載:メタバース ∞ 創造力の時代