企業はこぞってAIに注目し、効率と生産性の向上につながると期待を寄せている。ITを専門分野とする人を対象に最近行われた調査では、回答者の87%が対話型AIによって全体的な生産性が上がると考えていた。それでも、偏見と恐れからAIを敬遠する労働者もいる。反対に、AIを頻繁に活用する従業員もいるが、彼らはそうでない同僚よりも高確率で燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥りやすい。
世界保健機関(WHO)は燃え尽き症候群を正式に「健康状態に影響を及ぼす要因」とみなし、国際疾病分類(ICD)で「適切に管理されていない慢性的な職場ストレスに起因するもの」と定義している。燃え尽き症候群には以下の3つの症状がある。
1. エネルギーの枯渇や消耗、疲れを感じる
2. 仕事に対する否定的あるいは冷笑的な感情や、心理的距離が増大している
3. 仕事上の能率が低下している
燃え尽き症候群は、単なるストレスとは異なる。深刻な肉体的・精神的疲労を引き起こし、労働意欲の喪失や生産性の低下につながるような、制御不能なストレスのことだ。
AIの使用頻度と燃え尽き症候群
では、AIは職場における盾なのだろうか、それとも矛なのだろうか。その答えを得るには、水が良いものか悪いものかを考えてみるといいかもしれない。水というのは、多すぎても少なすぎても人間の命にかかわる。それと同じで、AIは良いものでも悪いものでもない。突き詰めると、どのように使えば人類の役に立つかが問われている。最新研究によると、AIは燃え尽き症候群を解決するものではなく、むしろAIの過剰な使用は燃え尽き症候群を引き起こす可能性がある。米国の労働者を対象とした調査では、AIを頻繁に使用する人が重度の燃え尽き症候群に陥る割合は45%で、AIをさほど使わない人より高いことが明らかになった。この数字は、8000以上の組織の労働者70万人超を対象にした、従業員の経験に関する米国最大級のデータベースから得られた。主な調査結果は以下の通りだ。
・重度の燃え尽き症候群を抱える従業員は、2021年以降減少しているが、37%に上る
・重度の燃え尽き症候群に陥ると、仕事に対する熱意が半分以下になる
・重度の燃え尽き症候群を抱える従業員は、転職先を探している可能性が2.1倍高い
・中間管理職は役員や一般社員より燃え尽き症候群になりやすい
・仕事量に対して職場の人員は十分だと答えた従業員はわずか40%
・AIを頻繁に使用する従業員が重度の燃え尽き症候群に陥る割合は45%で、使用経験がない従業員(35%)や使用頻度が低い従業員(38%)より若干高い