アジア

2024.06.07 09:30

中国が半導体産業に7兆円越えの巨額投資、続く米国とのにらみ合い

Shutterstock.com

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米中間で現在繰り広げられている貿易戦争で、激しい火花を散らせている主なものの1つが半導体だ。この分野で中国はこのほど大きな動きを見せた。国家集成電路産業投資基金(通称 「大基金」)の第3期として、過去最大の475億ドル(約7兆4400億円)を半導体の研究・開発と製造に投じる。

第1、2期では中芯国際集成電路製造(SMIC)や華虹半導体などの半導体メーカーに投資してきた。第3期は半導体の製造装置に資金を投入するとみられる。これらの投資は、半導体の製造と技術の高度化を自国で完結させるだけでなく、台湾を追いやることができるよう半導体業界を支配するという中国の思惑を示している。

高度な半導体は多くの産業で必要不可欠なものだが、人工知能(AI)分野での半導体の使用は米中双方にとって最大の懸念材料だ。両国とも、マイクロチップがなければ成り立たないAIを活用したシステムに多額の投資を行っている。半導体を重視するこうした姿勢は近年、米中関係に大きな影響を及ぼしてきた。米国は軍事面で利用される可能性がある先端半導体への中国のアクセスを制限しようと、2022年10月に中国への先端半導体の製造に必要な技術の輸出規制を強化した。

バイデン政権は2023年にも同様の意図で追加の措置を取った。同年8月に中国のような「懸念国」の半導体製造やAI分野への投資を制限し、10月には輸出規制を一層強めた。こうした措置を受けて、中国は国内の半導体製造能力の強化に乗り出し、自国で賄えるようにする決意を固めている。

中国政府が半導体生産を重視していることは、同国の外交政策のさまざまな側面からうかがえる。半導体製造においては台湾が世界をリードしていることから、台湾の保護が米国をはじめとする西側諸国の優先事項となる中、米国の政策により中国は常に論争の的になっている台湾との関係を微調整する必要に迫られた。この分野の専門知識を取り込もうとする中で、中国は優位に立つために技術者や業界幹部を勧誘し、企業秘密を入手するためのプログラムを展開している。

また、中国がアジアやその他の地域の国々に影響力を及ぼす上で半導体が重要なものであることもはっきりしている。最近では、ウクライナと戦争を繰り広げるロシアの支援でも重要な要素となっている。ロシアの半導体の輸入額は2021年の2億ドル(約310億円)から翌年には5億ドル(約780億円)に増加した。米当局者によると、2023年時点でロシアの高性能な兵器に必要とされるマイクロ・エレクトロニクスの90%を中国が供給している。中国がこれらの部品を販売することでロシアは兵器の生産が可能になっており、ウクライナ、欧州、西側諸国に対抗する中露の戦略の要だ。

中国が先端半導体の供給に高い優先順位を置いていることを考えれば、半導体を製造する能力を持つ国との関係に変化が生じるのも不思議ではない。米国の輸出規制に概ね同調している国々、例えばオランダは産業知識を得ようとする中国の標的となっている。半導体製造に不可欠な機械を多くの大手メーカーに供給しているオランダ企業のASMLは何度も中国による産業スパイ行為を受けている。
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翻訳=溝口慈子

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