世界の貿易に不可欠な国際海運が排出するCO2量は増加傾向にあり、地球規模の気候変動の一因となっている。環境にやさしい未来をめざすなら、対策を避けては通れない問題である。しかし今回の画期的な前進は、米国が造船能力で競争力を失い、中国に後れを取り続けるならば、米国政府にとって最悪の悪夢と化すだろう。
コスコの電動コンテナ船「緑水01(Greenwater 01)」は、驚異的なイノベーションだ。バッテリーのみで稼働するだけでなく、船体の全長、幅、コンテナ容量などでクラス最大を誇る。中国の造船業が急速に拡大していることの明らかな証左である。
The Greenwater 01, an electric container ship constructed by China's COSCO Shipping Corporation, has completed its first voyage, showcasing growing Chinese control over shipping and green tech. My latest in @Forbes. Please comment, share, and subscribe.https://t.co/n8NiuGKxbC
— Ariel Cohen, PhD (@Dr_Ariel_Cohen) May 16, 2024
いまや中国は、世界の造船市場シェアの46%以上を占める。対照的に、米国の造船業が世界に占めるシェアは0.2%にとどまり、世界的なグリーンエネルギー転換に対応することはおろか、貿易や防衛の需要増への対処にも苦労しているのが実情だ。米国は、もっと努力しなければならない。それも早急に。
現在の傾向が続けば、中国は海洋貿易と海洋グリーン造船技術の分野を急速に独占することになる。「緑水01」の航続距離は比較的限定されるため、大洋横断輸送は無傷で済むかもしれないが、沿岸輸送で採用したがる事業体には事欠かない。地中海、バルト海、カリブ海、ペルシャ湾、南シナ海など、長い航続距離は不要ながら世界でも有数の忙しい航路はいくらでもある。
「緑水01」の航続距離の短さは、地政学的に中国にとって好都合な副次的効果をもつ。長距離を航行できず、頻繁に整備が必要になるという事実が、インド洋各地の港に中国海軍が寄港拠点を設けるのを正当化する材料となるのだ。いわゆる「真珠の首飾り」戦略である。これにより中国は「マラッカ・ジレンマ」、すなわちアジアを出航した中国船舶の航路がインド洋東端のマラッカ海峡で寸断されるという脆弱性を強引に解決できる。