この理論では、「経済危機や社会・政治的な脅威などをきっかけに生じたストレスは、政治的な見解に影響を与える」という仮説が提起されている。そうしたストレスの多い状況に置かれると、プロパガンダや、思想に訴えかけるレトリックなど、極度に単純化された政治的メッセージの影響を受けやすくなってしまうという。
この理論によれば、人間の脳機能は、リソース不足などの脅威を感じ取ると、それに立ち向かうべく、目標指向型プロセスから、もっと短絡的な情報処理へとスイッチが切り替わる。その結果、不寛容な政治的メッセージを許容するようになってしまう。
緊迫した社会状況下でこうした変化が起きれば、過激主義の台頭につながりかねない。この理論は、社会環境が政治的イデオロギーに及ぼす影響が大きいことを浮き彫りにしている。
3. 性格の特性
人の性格は、人生経験ならびに遺伝的素因と作用しあって政治信条を形成し、ガバナンスや社会政策、自由についての考えに影響を及ぼす。社会と政治心理学ジャーナル『Journal of Social and Political Psychology』で2020年に発表された研究では、人の性格は、一般的な政治目標はもちろん、夫婦単位合算均等分割制(二分二乗制、欧米で導入されている税負担軽減策)や道路の速度制限といった、日常的な政治問題をも左右することがわかっている。保守的な政治志向は、いわゆる「常識的なまじめさ」との相関が高い。保守派は得てして、安定や調和、伝統、秩序、規則、権威といった特質を重視し、複雑でない物事を好む。こうした個人の性格が、不確実な物事を避け、曖昧なことを否定することで安定を維持しようとする傾向を促すのだという。
一方で、オープンさや協調性は、よりリベラルな政治志向と関連していることが、2020年の研究で明らかにされた。リベラル派は、斬新さや柔軟性を好み、「不確実なことや曖昧さへの寛容性」を好むようだ。
人の政治姿勢は、遺伝的な素因が土台となって形成される可能性があるが、一方で、人生経験や個人の性格との相互作用も、そうした学習を形作り、洗練させていく。このように複雑に絡まり合った要素を理解することで、世界に存在する政治的信条や政治的行動の多様性について洞察が得られるだろう。私たちが日々下している政治的な選択について、さらに熟考するきっかけにもなるはずだ。
(forbes.com 原文)