気候・環境

2024.05.20 12:00

「原子力発電」がエネルギー転換やCO2の急速な削減には不可欠だ

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世界が気候変動という存亡の危機に直面する中、党派政治を超越したエネルギー問題の解決策が1つある。それは原子力発電への大胆な再投資だ。米国や欧州連合(EU)は気候変動対策に多額の費用を投じてきたが、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするという目標を達成するには、現行の政策では不十分であることが明らかになりつつある。

問題は資金不足ではない。米国のインフレ抑制法(IRA)は、2032年までに3690億~3兆ドル(約57兆~467兆円)の予算をクリーンエネルギーの導入に割り当てるとしている。同様に、EUは気候変動対策を講じながら経済成長を目指す欧州グリーンディールのような取り組みを通じて、向こう10年間で1兆ユーロ(約169兆円)を投じる意向だ。

だが、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、再生可能エネルギーに関する現在の予測では、たとえ蓄電池と組み合わせたとしても、2050年の目標を達成するのに十分な脱炭素化を進めることはできないと強調している。二酸化炭素を排出しないベースロード電源(訳注:安価で安定的に供給できる電源)としての原子力がなければ、炭素排出量を実質ゼロにする目標の達成は2070年代以降までずれ込むかもしれない。

原子力は単なる気候変動対策ではない。エネルギー安全保障を強化しながら安定した雇用を創出し、環境に優しい水素製造を通してエネルギー転換を促す可能性もある。だからこそ、政策立案者はこの重要な技術である原子力を拡大するという現実的な方針を取るべきなのだ。

米国、カナダ、日本、そして多くの欧州諸国は現在、昨年打ち出された「原子力3倍宣言」に基づき、2050年までに原子力発電を3倍に拡大しようとしている。米国では近年、原子力発電の発展はほとんど見られなかった。1996年以降、同国で新たに建設された原子炉は、テネシー州ワッツバー原子力発電所2号機と、ジョージア州ボーグル原子力発電所で最近稼働開始した3号機と4号機だけだ。それでも米国は世界最多の原子炉を持ち、92.7%という高い稼働率を誇る。これは原子炉の停止時間が最小であることを示している。

これとは対照的に、ドイツやイタリアをはじめとする西欧諸国は、国民投票に基づいて原子力発電からの撤退を決めた。だが、原子力からの撤退に向かっていた国の中には、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて方針を転換した例もある。スイスとベルギーは廃炉までの期間を延ばすべく、原子炉の寿命を延長している。さらに、ハンガリー、チェコ、ポーランド、スロバキア、ルーマニアといった経済発展途上でエネルギー安全保障上の懸念のある東欧諸国は、原子炉の新規建設計画を進めている。
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翻訳・編集=安藤清香

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