ウクライナ軍の指揮官たちとしては、より重装備の部隊を北に送る前に、まずロシア側の意図を見極めたかったのかもしれない。たしかに、ロシア軍は北から攻撃を仕掛けることでウクライナ軍の一部の旅団を東部から引き剥がし、攻勢を続けるこの方面で新たな優位性を確保することを狙っている可能性もあった。
とはいえ、初期の防衛を領土防衛隊に任せるのは危険をともなう手だった。ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトの創設者「タタリガミUA」(@Tatarigami_UA)は「敵の主要な前進を阻止する任務は領土防衛隊の部隊に与えるべきものではない」と苦言を呈している。
しかも、この方面を守っていた領土防衛隊部隊は一部の塹壕を、ロシア軍の進撃を阻むのにふさわしくない場所に掘ってしまっていたらしい。「旅団の能力と即応態勢に対する理解不足から生じた組織的な問題の結果だ」とタタリガミUAは断じている。
こうした事情から、ロシア軍の小隊規模、つまり数百人でなく数十人程度の部隊が9日に国境を越えて進撃してくると、国境近辺の防御の薄いグレーゾーンにあるウクライナの村々はたちまち制圧された。領土防衛隊の部隊は退却した。
ウクライナ側が重装備の部隊を投入しなければ、さらに多くの村がロシア側の手に落ちるのは明白だった。そのためリプチ村方面には第42独立機械化旅団と第92独立機械化旅団、ボウチャンシク市内には第57独立機械化旅団と第71独立猟兵旅団(空中強襲軍隷下)が増援に送られた。
その結果、「ボウチャンシク方面ではウクライナ側の防御が大幅に強化され、敵(ロシア側)に対する攻撃も効果的になってきている」とブトゥソウは伝えている。「ロシア側はわれわれの部隊を市内やその周囲の陣地から排除できていない」とも書いている。
状況はリプチも同じだ。「ウクライナ軍はこの方面で敵に対する攻撃を著しく激化させ、次第に戦術的な主導権を握りつつある」(ブトゥソウ)