堅固になったウクライナ側の防御を攻めあぐねるロシア軍は、新たな戦術を試みている。少数の大きな部隊ではなく、多数の小さな部隊で攻撃するというものだ。ウクライナのシンクタンク、防衛戦略センター(CDS)は15日の作戦状況評価で「小隊規模の突撃部隊が(ウクライナ軍の)防御拠点側と交戦し、その後、ほかの突撃部隊と合流する」と説明している。「こうすることで目標に接近する際の損害を抑えられる半面、前進ペースは遅くなる」という。
いずれにせよ、歩兵戦術を少し変更したくらいでは、北東部の戦線の力学を根本的に変えることはできない。ロシア側の兵力は十数個の連隊や旅団からなる総勢3万人とされ、この規模ではハルキウへの進軍どころか、ボウチャンシクやリプチの攻略すら不可能かもしれない。
ロシア軍がこの方面に追加の部隊を送っていないことは、作戦の真の狙いを示唆しているとも考えられる。フィンランドの軍事アナリスト、ヨニ・アスコラはこう述べている。「現在の状況はともかく、北からの攻撃は事前に(ウクライナ側に)感づかせすぎだった印象を受ける。ロシア軍の不十分な兵力からしても、ウクライナ軍に限られた予備兵力を投入させることを意図した、大掛かりな陽動以外の何物でもないように思える」
もっとも、ウクライナ側が東部の主戦場であるドネツク州アウジーウカ、チャシウヤール両方面の防御が弱体化するほど、兵力を北部に転用したのかどうかは明らかでない。
アスコラは、ハルキウ州に一部の部隊や装備が移されたのは確かなので、「目的が陽動だったのなら、ある程度は成功したことになる」と説明している。そのうえで「この成功の度合いは、(ウクライナ側が)追加で移動を余儀なくされる部隊の数にかかっている」とも指摘している。だがこの数日、新たに北へ向かったウクライナ軍部隊はひとつもないようだ。
とはいえ、北東部の作戦は終わっていない。ブトゥソウは「(ロシア軍は)まだ撃退されていない」と強調し、「撃滅に向けた激しい戦いが続いている」と伝えている。
恐ろしいことだが、ロシア側は損害が大きく、期待していたほどウクライナ軍の兵力を分散できそうにもない地上攻撃に見切りをつけ、ボウチャンシクやリプチの占領をめざすのではなく、たんに砲撃や空爆で破壊しようとする可能性もある。
(forbes.com 原文)