経営・戦略

2024.04.15 15:00

解雇ともなう企業買収でも従業員の意欲を高める4つの方法

木村拓哉
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買収契約の締結が近づくと、ラダニはSalary.comから4~5人を選び、中核となる経営チームに加えた。その後、買収発表から最終手続きまでの1カ月を利用して、すべての人員の評価を実施した。これにより全従業員に対して、新体制での勤務初日に、それぞれのポジションと、自分が以下の3つの枠のどれに該当するかを伝える準備ができた。

1. 90~120日のあいだ、留まって移行を助けたのち、会社を辞める

2. 即日解雇(この枠には、財務およびG&A[一般管理]部門の全員が含まれた)

3. チームの一部として残留(300人中200人)

小手先の計略や駆け引きのない、明確な姿勢を貫いたことは、大きな信頼の構築につながった。

人の功績を認め、適切に評価されていると感じさせる

ラダニにとって2つ目の仕事は、彼のトップ任命とともに始まった。カーサンCEOは第1日目に全員に対して、ラダニの発言はケネクサ経営陣の見解であると伝えた。ラダニはSalary.com社員にとって、言ってみれば「最後の上訴裁判所」だった。

その後、ラダニは自身のチームに権限を与えて始動させ、チームメンバーの成果を随時評価した。

自分たちは完璧ではないと認める

「即日解雇もしくは90~120日残留」の決断は、実際の買収前に下されたため、本来なら去るべきではなかった一部の人も解雇され、ラダニとカーサンCEOはのちにそれを悔やんだ。

買収後、みずからの過ちを認めた二人は、そうした人たちを連れ戻した。こうした事例は3~4件あった。なによりも重要なのは、二人が謙虚に自分たちの過ちを認め、それを正したことだ。

成長と学習

カーサンCEOはケニヤ出身だが、小さい頃の同氏に祖父がよくこう言っていたという。「学びをやめた日に、おまえは死に始めるんだよ。他の選択肢なんてないんだ」。同じことは組織にも言える。

学習は、カーサンCEOとケネクサの核となる価値観だ。カーサンCEOとラダニはこの点に関して、Salary.comの社員に「他の選択肢」を与えなかった。社員たちは、ケネクサの社風を直ちに採り入れなければならなかった。チームに加わるよう要請されたSalary.comの社員は、1日目から、ケネクサの他の社員と同じように扱われた。

もちろん、その後もいくつかの障壁はあった。ただし、Salary.comの社員が、プロセスが明確で堅固であることを高く評価していたことは間違いない。社員のなかには、「結婚する前にデートをしたかった」と思う人もいたが、結果はおのずと明らかになった。

チームに加わることを要請されたSalary.comの社員200人のうち、ケネクサが失った「A」評価の人員は3~4人にとどまった。そして、買収から6カ月後の従業員エンゲージメント調査では、元Salary.com社員と、それ以外のケネクサ社員のスコアは「見分けがつかない」ものだった。

カーサンCEOは1年後、ケネクサを13億ドル(当時のレートで約1023億円)でIBMに売却した。

この話が意味すること

この記事の要点は、いまも変わっていない。組織管理とチェンジマネジメントのプレイブック(作戦ノート)は、『The Merger & Acquisition Leader’s Playbook(合併・買収リーダーのためのプレイブック)』で扱う「7つの主要サブプレイブック」のうちの2つにあたる。

戦略や商取引、経営、財務、ガバナンスのサブプレイブックは必須だが、それだけでは十分ではない。Salary.comに関するカーサンCEOの成功をなぞりたいと望むのであれば、従業員エンゲージメントに同じくらいの注意を払うことをおすすめする。

forbes.com 原文

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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