この突撃部隊は第76親衛空挺師団の兵士や車両で構成されているようだった。第76親衛空挺師団はかつてはロシア軍の精鋭部隊として知られ、ほかの師団と比べて兵士の練度も高ければ、配備されている装備も優れていた。
ところが、この突撃部隊は何かが違っていた。突撃を先導する戦車は、以前に第76親衛空挺師団の標準装備だった近代的なT-72戦車やT-90戦車ではなかった。それは、ドローン対策の粗製の装甲を取り付けた、1950年代にさかのぼる古いT-55戦車だった。
突撃はロシア側の大惨事になった。ウクライナ軍の第118独立機械化旅団は野砲や対戦車ミサイル、爆発物を抱えたFPV(一人称視点)ドローンで応戦し、ロシア側の車両少なくとも11両を撃破した。うち1両は、粗末な光学機器、100mmライフル砲、厚さ200mmの装甲を備えた40t、4人乗りのくだんのT-55だった。
とはいえ、ここで重要なのはロシア軍による突撃の失敗自体ではない。突撃の失敗ということなら、ウクライナ軍はロシアが拡大して3年目に入る戦争の約1000kmにおよぶ戦線で、数日おきにロシア軍の大規模な突撃部隊を撃退しているからだ。米議会のロシアに甘い共和党議員らが昨年10月、米国の対ウクライナ追加支援を妨害し始めて以来、ウクライナ軍の部隊は弾薬不足に苦しんでいるにもかかわらずだ。
注目すべきはむしろ、ロシア軍で最高の部類に入っていた部隊が、とうの昔の50年前に時代遅れになった戦車を使用しているという点だ。その戦車は、ロシア軍が昨年、ウクライナで失った途方もない数の近代的な戦車を埋め合わせるために再び使い始めるまで、何十年も屋外で保管されていたものだ。
ここへきて一段と鮮明になっているのは、ロシアの産業界が、ウクライナでの損失を補える量の近代的な車両を生産できていないということだ。ロシア軍は今年に入り、ウクライナの戦場で戦車やその他の戦闘車両、榴弾砲といった重装備を毎月400ほど失っている。昨年9月よりも3割ほど多いペースだ。
だからこそ、ロシア軍は長期保管施設からさらに古い車両をますます多く引っ張り出し、かつてはロシア軍で最高・最新の装備を運用していた部隊にも配備しているのだ。