宇宙

2024.03.30 13:00

火星に送られた1909年鋳造の「1セント硬貨」の重要な任務

NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems

白黒の図形のすぐ下には、ちょっとした遊び心が忍ばせてある。線画の漫画キャラクターが描かれているのだ。手足と触角をもつ丸ぽちゃのキャラクターは「火星人のジョー」で、火星の科学を子どもたちに伝える広報マスコットとして活躍してきた歴史がある。
火星探査車キュリオシティに搭載された火星拡大鏡撮像装置(MAHLI)の校正用ターゲット拡大図。リンカーン・ペニーのすぐ上に「火星人のジョー」の線画が描かれている(NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems)

火星探査車キュリオシティに搭載された火星拡大鏡撮像装置(MAHLI)の校正用ターゲット拡大図。リンカーン・ペニーのすぐ上に「火星人のジョー」の線画が描かれている(NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems)

校正用ターゲットにはもう1つ重要な要素がある。上部に配置された水彩絵の具のパレットのような長方形のパーツは、着色されたシリコンだ。MAHLIが撮影した画像に写った物体の色と明るさを分析するのに使われる。
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リンカーン・ペニーは、火星における変化を示す目印でもある。キュリオシティはこれまで数々の砂嵐や厳しい寒さ、岩だらけの地形に耐えてきた。硬貨はその旅路を物語っている。火星に到着した時はきれいだったが、今では時間と砂塵がミッションに与えた影響が見てとれる。

「火星上で長い時間をかけて硬貨がどのように変化していくかを観察できる。色は変わるのか、腐食するのか。風に飛ばされてきた砂で穴が開くのか?」とキュリオシティ・プロジェクトの科学者ケン・エジェットは探査車の火星到達前に語っていた。

2023年9月にMAHLIがリンカーン・ペニーの拡大画像を撮影したところ、硬貨の表面にびっしりと砂塵が付着しているのが確認できた。しかし、それでも硬貨に刻まれた文字は読める状態だった。1セント硬貨は地球上でもポケットに数え切れないほど出し入れされ、それでも摩耗しにくいのだから、火星の過酷な環境に耐えられるとしても不思議ではないかもしれない。
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キュリオシティは、火星にかつて微生物が生息していた可能性があるかを解明するため長期にわたって活動している。これまでにゲール・クレーターに水があった痕跡や有機物の証拠を発見したが、水や有機物の分子の起源はまだわかっていない。

探査車に搭載されたリンカーン・ペニーは輝きを失ったかもしれないが、キュリオシティのミッション継続にはしっかりと幸運をもたらしてくれているようだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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