テクノロジーの急速な進歩の結果、既存企業が後発の企業に追い上げられる現象は、自動車業界も例外ではない。EV(電気自動車)とAD/ADAS(自動運転・先進運転支援システム)によって、スタートアップがシェアをひっくり返す可能性すらあるのだ。テスラや中国系企業の成功に続けと、世界を目指す新興EV会社が抱く野望とは。
ベトナム一の富豪ファム・ニャット・ブオン(55)が現在目指しているのは、ビンファスト・オートをベトナム初のグローバルな自動車メーカーにすることだ。世界のEV市場で戦えるブランドを目指して、100億ドル以上を投入している。道のりは険しく、同社が国外での競争で生き残っていくのは難しいと見る向きもあるが、最高経営責任者(CEO)を務める元銀行家のレ・ティ・トゥ・トゥイ(49)は自信たっぷりだ。
「我々の使命は誰もがEVを利用できるようにすることなのです」(トゥイ)
ビンファストは、6年以内に世界でのEV累計販売台数でテスラが17年かかった100万台を達成するなど、野心的な目標を掲げている。いくつかのEVモデルを発表し、充電インフラを開発したほか、ベトナム国内に完全自動化された工場を建設。今後3年間でさらに18億ドルを投じ、2025年までに米国で、26年にはインドネシアとインドで、工場を稼働させる計画だ。目標は、こうした国々の政府補助金と税制優遇を生かし、26年までにグループの年間製造能力を、現在のベトナムの工場1カ所での生産台数30万台から約55万台に増やすことだ。
巨大な米国市場で、ビンファストはごく小さな存在にすぎない。自動車産業のウェブサイトであるマーク・ラインズによると、23年1~9月に同社が米国市場で販売したEVはわずか2000台。ビンファストによると、第1四半期から第3四半期の同社の納車台数は約2万1000台だが、その60%以上に当たる約1万3000台は国内向けで、ファムが経営する電動タクシー会社グリーン・アンド・スマート・モビリティ(GSM)と彼の旗艦会社ビングループで使われている。GSMはベトナム全土で電動タクシー事業を始めるに当たり3万台のEVを発注しており、現在、事業をラオスとカンボジアにも拡大中で、米国への進出も検討中だという。
市場調査会社ライトストリーム・リサーチのアナリストは、グループ子会社への販売は需要の低迷を物語っていると話す。ビンファストは世界市場でのEV販売には苦戦するとの見立てだ。米国市場には今のところ中型SUV“VF8”だけが投入されているが、23年5月、販売開始後わずか2カ月でのリコールで売り上げは伸び悩んだ。