船はサイズが大きくなるほど安定性が増す一方、旋回に時間を要するようになる。従業員数はグローバルで12万4000人、売上収益は3兆7137億円(2023年3月期)という業容を誇る富士通は、まさしく巨艦。同社はITベンダーからDX企業へ変貌を遂げようとしているが、その大きさゆえにかじ取りは容易ではない。社長の時田隆仁は、荒波を乗り切るためにどのようにリーダーシップを発揮しようとしているのか。
──社会の変化をどうとらえているか。
時田:持続可能性や環境、ウェルビーイングを重視するZ世代が育ってきて、私の世代とは違う価値観が社会に広がっていた。そのなかでパンデミックが起き、世界にはさまざまな分断があることが明らかになった。一方では紛争が経済や私たちの暮らしを直撃して、世界がつながっていることも痛感している。明日何が起きるかわからない時代だ。使い古された言い方だが、企業経営には変化対応力、そしてレジリエンシーがより一層求められるようになった。
──時代の変化に合わせて、経営者に求められるリーダーシップは変わったか。
時田:かつてリーダーには、デシジョンメイクが大きな使命として割り当てられていた。しかし、今は人々の多様な価値観を尊重しながらひとつの方向に向かわせることが求められている。右か左か、黒か白かでは済まない。ある種の曖昧さを受け入れつつ、これだと決めたことを進めなくてはいけないところに、今のリーダーシップの難しさがある。曖昧さを受け入れるといっても、コンフリクトを避けて妥協点を探すやり方では物事が進まない。コンフリクトを恐れずに立ち向かいながら、第三の道を一緒に見つけ出す辛抱強さが必要だ。コンフリクトからイノベーションを生み出せることが、いいリーダーの条件だ。
生身の人間を扱っている自覚が必要
──富士通はグローバルに事業を展開しており、従業員数も多い。一般的な企業に比べ、価値観はより多様だ。時田:グローバルで12万4000人いて、その2割が施策に反対だとしても3万人近い社員が反対していることになる。例えば富士通は人事制度をメンバーシップ型からジョブ型にシフトして、年功序列はもちろん、定期昇給もなくした。一方、グローバルでポスティング制度を採用した。パンデミックで仕組みが不完全なまま断行した部分があり、こうした変革を歓迎する声がある一方で、ネガティブな声もあった。ネガティブな反応にどのように向き合うか。毎日、自分が試されていると感じている。