「国境」と「部署」ふたつの壁を乗り越えた富士通のDXプロジェクト

富士通 及川美智代(左) 喜多昌之(中央) 友廣啓爾(右)

Forbes JAPAN新アワード【NEW SALES OF THE YEAR】誕生! 米セールスフォース式「The Model」の輸入や、コロナ禍で加速した業務のDX化も重なり、いま営業職は、優秀な個人が競い合う職種から、全社で協力しあう経営戦略の要へと変化しつつある。 Forbes JAPAN2023年8月号で紹介した第1回入賞企業全5社のうちの1社が富士通だ。


「以前はマーケティングと営業が分断されていました。営業スタイルの属人化や縄張り意識も強く、約10000人の営業人員が足で稼いだ知見が社内で共有されない。全社やグローバルといった大きな枠組みでの戦略が立てにくい組織でした」と話すのは、富士通の働き方改革・DX化施策のリーダーなどを歴任してきた喜多昌之だ。

同社では、顧客の要求を実現するためのオーダーメイド型のソリューションを提供し、商談開拓から保守フェーズまで継続して顧客に寄り添う営業スタイルが主軸だった。顧客の課題や要望は業種別の共通点が多く、営業のユニットは業種軸で分かれていた。しかしデジタル化が進むにつれ、顧客の要望は多様化し、業種の垣根を越えたさまざまな課題も増えていった。

「ある意味、極端な顧客専従型の営業をしてきました。ハードウェア販売を起点としたビジネスモデルでは有効な手法だったのですが、従来のやり方だけではビジネスが立ち行かなくなる。顧客も気づかぬ課題を察知して価値を提供する、提案型の営業への変革が必要不可欠でした」(喜多)

そこで「オファリング型ビジネスへの転換」をスローガンに掲げて営業改革を実行。2021年に始まった「OneCRM」は、各部署のシステムや業務プロセスを本社主導で標準化し、商談と顧客データをグローバルで統一するプロジェクトだ。約13万人のグループ全社員を巻き込みながら、国内外に広がる4つのリージョンで同時に遂行された。

国内外のデータを連携し、データドリブン経営へと舵を切ったが、グローバルで思わぬ壁にぶつかった。国によって個人情報の扱いや規制が異なり、入力データの標準化が難航したのだ。「統一を進めている途中で法規制が変わってしまった国もあります。一歩進むたび壁にぶつかるようにして進んできました」(喜多)。

2020年に入社した友廣啓爾がインサイドセールスを担当するデジタルセールスチームを発足させたことで、課題だったマーケティングと営業の壁も透過していった。友廣はこう話す。「まず着手したのは商談ステータスの再定義。マーケティング・インサイドセールス・営業が部署をまたいで案件を共有できる、シームレスな連携プロセスをつくりました」

いまや80人が所属する経営直下のチームとなったが、スタート時のメンバーはたった3人。新たなリード獲得手法への理解を深めるため、友廣は、経営陣や営業部門に対して変化の必要性を「400回以上伝えて回った」と語る。

「『営業様に話しかけるな』と言われるほどマーケティングの地位が低かったものですから(笑)、根気強くやりました。手間は増えないのか、顧客に影響はないのか、営業が抱く不安を少しずつ解消していくことを心がけました」
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文=井澤 梓 写真=ヤン・ブース

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