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2024.03.16 13:30

菓子パンから半導体まで ブラシ屋の世界一の進化を見よ

Forbes JAPAN編集部
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「03年には自ら中国の蘇州にブラシの製造販売を行う会社を設立し、スクラップ&ビルドの両方を経験しましたね」

服部が社長に就任したのは15年のこと。このころには同社が得意とする自動車産業にEV化の波が少しずつ押し寄せていた。金属部品が減ればブラシの需要も減る。東芝の家電事業売却にも大きな衝撃を受けた。「いつまでも今の環境は続かない。自らのかじ取りで新しい進路を決めよう。やはり自分たちの原点、強みはブラシだ」。
本社工場では工業用ブ ラシの製造を手掛ける。本社社屋は2020年にリニューアルした。

本社工場では工業用ブラシの製造を手掛ける。本社社屋は2020年にリニューアルした。

考え抜いた結果、19年に初のクリーン機器の自社ブランドを立ち上げる。「世界にない、を探究する」という思いをブランド名「tanQest (タンクエスト)」に込めた。コアコンピテンシーを社員たちが徹底して探求する組織になったと言えるだろう。第1弾として業務用掃除機の進化形を発表。時代とともに家庭用の掃除機ノズルは進化してきた一方で、業務用は30年以上前から形も機能も変わっていない。そこで現行市場品の約2倍の吸引力と2種類の自走式のパワーヘッドを持つ「α-1」を開発。清掃時間を約半分に短縮して生産性を上げることに成功した。「東京五輪前のホテル需要を見込みましたが、コロナ禍で難航したのもいい経験になりました。沖縄のリゾートなど高級ホテルからの引き合いが多いですね」
クラウドファンディン グで大反響だった、ほうきの進化形「ONE STROKE」。チリトリには静電気が発生しづら い導電性の素材を採用し、ゴミ捨てを楽にした。

クラウドファンディングで大反響だった、ほうきの進化形「ONE STROKE」。チリトリには静電気が発生しづらい導電性の素材を採用し、ゴミ捨てを楽にした。

さらに21年には一般市場に向けた商品の開発にも乗り出した。「人類最古の掃除道具を日本一のブラシ屋が最新スペックでつくる」とのコンセプトがユニークな5層構造のブラシが特徴的な「ONE STROKE」だ。「ハイテクの時代に逆張りです(笑)。フローリングの板の間の小さなゴミもかき出して、ひと拭きでちりとりまでもっていけます。開発に3年かかりました」。クラウドファンディングでの応援購入総額は4362万円超と大好評。バイヤーの目に留まり、全国の百貨店や通販チャンネルから声がかかり、販路が広がった。さらにメディア出演も増え、主軸のBtoBにも好影響を与えている。これまで取引のなかった企業から「コーワならできるのでは?」と特注ブラシなどの相談が寄せられるようになったのだ。

今後の成長が見込める分野としては、リチウム電池の性能を決める「セパレーター」と呼ばれるフィルムの製造工程がある。特殊な液体から取り出したフィルムを洗浄しながら液体を吸引する「吸引装置付き不織布ロールブラシ」を世界一のメーカーに提供しはじめた。

今後はどんな世界戦略を描くのか。

「半導体やリチウム電池と言ったほうが高尚な感じがしますよね(笑)。でも、私たちはどこまでも泥くさく現場を歩きたい。ミニトマト洗浄から半導体製造現場までブラシのニーズを探究することで、我々の付加価値はまだまだ上がります。新たな市場、次の世界一をつくるつもりです」

服部直希
◎1973年愛知県生まれ。中日ドラゴンズの本拠地ナゴヤドーム(現バンテリンドームナゴヤ)開業準備にかかわったのち、2001年にコーワ入社。常務取締役・専務取締役を経て15年に代表取締役社長に就任。19年にクリーン機器の自社ブランド「tanQest」を立ち上げ。20年に経営ビジョン「探究心で世の中の役に立つ」を策定。

文=畠山理仁 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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