何がベゾスをこれほどまでに成功させたのかを理解するために、ベゾスとアマゾンが1999年にどのような状況にあったかを振り返ってみよう。当時、アマゾンは資金を事業構築にどんどん注ぎ、利益は皆無だった。米テレビCNBCのインタビューの中で、ベゾスは自身のビジネスモデルについて「アマゾン・ドット・コムが大事にしているものが1つあるとすれば、それは顧客体験への徹底的なこだわりだ」と説明した。
それでもインタビュアーはベゾスにこう問いかけた。「だが投資家にとって重要なことがある。投資している会社が……」
ベゾスはそこでインタビュアーの言葉を遮った。「いや、投資家たちは顧客体験にこだわる会社に投資しているべきだ。長期的に見れば、顧客の利益と株主の利益の間にズレはない」
ベゾスはその後インタビューの中で「顧客」という言葉を6回、口にした。
ベゾスは実は哲学者アリストテレスの教えを口にしていたのだ。アリストテレスは著書『弁論術』の中で「パトス(共感)」、つまりオーディエンスの関心事に対処することを、説得とコミュニケーションに不可欠な要素の1つとした。
これが意味するところを現代風に、そしてあなたに当てはまるように言えば、プレゼンテーションの聴衆や電子メールを送る相手、打ち合わせの参加者、会議の出席者、あるいは慈善活動の寄付者など、あなたがコミュニケーションを取る相手の分析を行うということだ。分析は相手についてだけでなく、相手があなたのメッセージに反応し、行動するよう説得するために、相手が何を知っていて、何を知る必要があるかを見極めるものである必要がある。
より基本的な言い方をすれば、それはオーディエンスが受ける恩恵を決定することを意味する。残念ながら、メッセージやツイート、ブログといった現代の短い形式のコミュニケーションでは、恩恵は途中で失われてしまう。