金与正氏は15日の談話で「日本が時代錯誤な敵対意識と実現不可の執念を、勇気を持って取り下げ、(中略)政治的決断を下せば、両国がいくらでも新しい未来を共に開ける」と語った。これを読みかえれば、「日本人拉致問題で生存者の全員帰国という主張を取り下げ、米朝の核・ミサイル協議に口をはさまないなら、日朝関係の改善を考えてやろう」ということになる。
北朝鮮は2014年、水面下で日本に対し、拉致被害者に対する再調査の中間報告として、政府が拉致被害者として認定した田中実さんと、警察庁が「拉致の可能性を排除できない行方不明者」としている金田龍光さんが平壌で生存しているという情報を伝えた。同時に、「これで拉致問題は最終解決した」と主張した。当時の安倍首相の判断で、日本は中間報告を受け入れなかった。北朝鮮は今回、同じ主張を繰り返し、日本に譲歩を迫る考えだろう。
岸田内閣は支持率が2割を切るか切らないかという超低空飛行状態が続いている。9月の自民党総裁選まで、支持率を反転させる好材料もない。永田町でも「岸田はきっと北朝鮮の誘いに飛びつくだろう」という声が少なくない。とりあえず、2人だけでも帰国させられるよう努力するのは間違っていないと思うが、岸田首相も「これで拉致は最終解決」とは口が裂けても言えないだろう。
また、永田町では「4月の米国国賓訪問を花道に、岸田には退場してもらうべきだ」という声も上がっている。北朝鮮が意気込んでも、日朝首脳会談の準備をしている間に、日本で政権交代が起きれば、話は振り出しに戻るかもしれない。
こうした不確定要素があることは、北朝鮮も織り込み済みだ。だから、金与正氏は15日の談話で「あくまでも個人的な見解であり、私は公式に朝日関係を評価する位置にいない」と語ったのだろう。北朝鮮は北朝鮮で、過去の日朝関係で散々煮え湯を飲まされたと思っている。2002年9月の日朝首脳会談では金正日総書記が拉致を認めて謝罪したが、期待した経済協力は得られなかった。その後も再調査に応じたが、逆に「嘘つき」のレッテルを貼られた。下手に日朝関係に手を出して、また何も得られなければ、金正恩体制の威信が低下しかねない。
これから、日朝間で水面下の接触が本格化する。2月と3月にある男女のサッカー日朝戦では、北朝鮮が昨年のアジアカップで見せたようなラフプレーは影を潜めるだろう。環境整備の一環として、北朝鮮当局がサッカーの選手たちにそのような指示を飛ばすのはたやすいことだ。ある程度、路線が定まったら、今度は金正恩氏が何らかの発言をすることになるだろう。
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