そこに新たにAI新皮質のようなものができて、それも含めて人間存在になっていきます。つまり、人間の存在意義は、人間の存在の範疇自体が広がった上で、引き続きなくならないと思います。
──AI新皮質が備わった際、人間にどのような変化が起こりますか?
人間個体の能力そのものの重要性は相対的に下がり、接続しているAIのスペック、接続AI数、回線速度などが中核的な能力として認識されるようになります。これは古代から現代にかけて、「本能、筋肉、戦闘能力」の重要性が下がって「理性、知性、社会的地位」の重要性が増したという、既に人類が経験している変化です。
寂しいと思う方もいるかもしれませんが、それは筋肉が主の闘争的な社会がなくなるのを寂しがっているのと同じ。人間として思考OSのアップデートをしていく必要があるのです。
ポジティブな側面もあります。例えば能力至上主義はなくなるでしょう。僕らは、割と人を能力で見ているものです。この人はすごく仕事ができるから一緒にいて楽しいな、という感覚ですね、そこから脱し、能力の高低によって接し方や印象が変わらなくなるのは、優しい社会の実現を示唆しています。
──フラットな関係性を築ける社会で、個人の魅力はどこから醸し出されるでしょうか。
個人的には、創作活動を自分の軸として持ちたいという意識が強まっています。生成AIネイティブの社会で、自分の世界観を表現できる人ってめちゃくちゃ強いと思うんですよ。例えば小説を書くことができたら、生成AIを活用すれば、アニメや漫画、映画にだって簡単にすることができる。つまり0→1の表現ができれば、その後は無限に可能性が広がります。僕は今年、SF小説を書くことにチャレンジします。
また、生成AIは人間や社会の在り方を変容する技術なので、社会の変化や人間の在り方に対して、自分なりの哲学を持つことも大切です。10年後、50年後、人間や社会がこう変わるという自分の哲学を持つためにも、生成AIにちゃんと向き合って肌感を持つことが欠かせないと思います。
梶谷健人◎東京大学 経済学部を卒業後、株式会社VASILY、フリーランスを経て、2017年にXR/メタバース領域のスタートアップMESONを創業。2022年同社を退任後、生成AIやXRなどの先端テクノロジーに強いプロダクト戦略顧問の企業POSTSを設立。著書『生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方 』『いちばんやさしいグロースハックの教本』。