チェルノブイリ事故の年に生まれた起業家
ガル自身も、そのような偽陽性のリスクがあることを認めている。しかし、彼に言わせれば、全身MRIのメリットは、そのリスクを上回る。「偽陽性を除外するための最善の方法は、より多くの画像を撮影することなのです」と彼は主張する。ソフトウェアエンジニアで、かつては広告テクノロジーの起業家だったガルは、家族のがんと直面した経験からヘルスケア分野に転身したと語った。彼の母親はがんで他界しており、彼自身も皮膚がんの一種であるメラノーマのリスクが高い。チェルノブイリ原発事故と同じ年にルーマニアで生まれたガルは、身体に250個以上のほくろがあり、放射線被ばくを心配し、頻繁に皮膚科を訪れるようになったという。
「私は、検診の重要性を、おそらく他の若い世代の人よりも認識しているほうだと思います」と彼は話す。
しかし、今のところ数千ドルを支払うエズラの顧客の数は限られている。60分の全身スキャンと肺の検査は現在2500ドル(約37万円)で、肺と脊椎を除いた30分のスキャンは1350ドル(約20万円)だ。しかし、同社の最終的な目標は、15分のスキャンを500ドル(約7万5000円)程度にすることで、それを「2年以内に実現したい」とガルは述べている。そのためにエズラはAIを活用している。
全米50カ所で検査を提供
エズラはハードウェアの類を一切製造しておらず、自社ではMRI検査装置を所有していない。同社は、Radnet(ラドネット)のような既存の放射線センターと提携し、GEやシーメンス、フィリップス製の装置を用いた検査のための費用をクリニックに支払う。エズラは、今年末までに全米50カ所以上でEzra's AIと呼ばれるサービスを提供する計画だという。「素晴らしいビジネスモデルだと思います」と、エズラの投資家の一人でOne Medicalの元CEOであるアミール・ダン・ルービンは話す。彼の新たなベンチャーファンドのHealthier Capitalは、FirstMark Capitalと共同でエズラに投資を行った。ルービンは、エズラの差別化のポイントが「MRIスキャンにかかる時間の短縮」であると述べた。検査時間の短縮は、患者にとっても、クリニックにとっても、大きなメリットになるという。
エズラの革新性はすべてソフトウェアにある。同社のAIは、1000万枚のMRI画像のデータベースと、サードパーティのデータプロバイダーから収集した匿名化されたデータを基に構築されている。エズラは、既存のクリニックの放射線科医やMRI技師にこのAIの使い方をトレーニングしている。
一般的なMRI検査では、高品質の読影を行うために複数の画像を必要とするが、エズラのソフトウェアでは、AIがスキャン画像からノイズを除去して鮮明度を高めるため、必要な画像の枚数が少なくて済む。Ezra Flashと呼ばれるこの技術は、脳のスキャンを高速化するための技術として昨年7月に米食品医薬品局(FDA)の認可を取得した。
放射線科医は、スキャンされた画像にEzra Assistと呼ばれる別のAIツールを適用する。このツールも前立腺の分析に役立つものとしてFDAの認可を受けている。エズラはまた、所見を顧客に伝える際にも、複雑な医学用語をより簡単な言葉に変換するための別のAIツールを構築した。「これは、放射線診断報告書のためのChatGPTのようなツールです」とガルは語った。