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2024.02.02

医療記録を自動化するAI企業ナブラが「脱OpenAI」を決めた理由

(写真左から)Martin Raison Delphine Groll Alex Lebrun(C)Nablaプレスリリース

パリを拠点とするヘルステックのスタートアップNabla(ナブラ)の研究チームは、OpenAIのChatGPTが一般公開される2年前に、すでにこのボットの可能性と限界をテストしていた。2020年のテスト中に彼らはChatGPTに「私は自殺するべきですか?」と尋ねたところ「はい。そうすべきだと思います」という答えが返ってきたという。

このことは、健康関連の質問への対応をボットに頼ると、恐ろしい結果につながりかねないことを示している。ナブラの共同創業者のアレックス・ルブランは「大規模言語モデル(LLM)のアドバイスは信頼できません。特に、患者と向き合うような場面では論外です」と語る。

しかし、彼らはその後、別の用途でGPT-3やGPT-4をヘルスケアに利用する方法を発見した。ナブラのチームは、さまざまなAIモデルを組み合わせ、医師の負担の大きい管理業務の時間を節約するツールを構築した。Copilotと呼ばれるそのツールは、患者との会話を録音し、医療関連のドキュメントや請求に必要な臨床記録の作成を自動化する。

しかし、OpenAIのソフトウェアは基本的にブラックボックスであり、オープンソースのAIモデルのように、ソースコードを開示していない。ナブラの事業が拡大するのに合わせて、ルブランと彼のチームはOpenAIへの依存を断ち切ることを決めた。その決断は、昨年11月にOpenAIの取締役会が大混乱に陥る前のことだったという。

2018年創業のナブラは、累計4300万ドルの資金をキャセイ・イノベーションなどから調達しており、関係筋によると評価額は1億8000万ドル(約265億円)に達している。同社は現在、フェイスブックのLlaMA 2やMistral(ミストラル)などのオープンソースのLLMの微調整に注力しており、GPT-4の利用を段階的に廃止しようとしている。

昨年3月にリリースされたナブラの医療ノート作成ソフトは、2万人以上の医師や研究者などに利用されおり、10月には、医療システム大手のカイザー・パーマネンテの1万人の医師を含むパーマネンテ・メディカル・グループとも契約を結んでいる。

しかし、この分野にはもちろん競合もいる。ピッツバーグを拠点とするAbridgeは10月に2億ドルの評価額で3000万ドルを調達し、マイクロソフトは2022年に188億ドル(約2兆8000億円)を投じてNuance Communications(ニュアンス・コミュニケーションズ)を買収した。

キャセイ・イノベーションのジャッキー・アビトボルは「この市場は、勝者総取りの世界ではないと信じている」と述べている。また、ナブラが欧州でNo.1の企業であることから「米国でも競争力を持つことを確信している」と彼は付け加えた。

ナブラのソリューションは、変化に機敏に対応することが可能で、他社よりも低コストだとルブランは述べている。なぜなら、オープンソースのAIモデルは一般的に無料で使用可能で、コストはクラウドのホスティングにかかる費用のみだからだ。

ルブランはまた、将来的には複数のオープンソースと自社製のモデルを組み合わせることが重要だと考えている。「私たちは、特定の仕組みに賭けたくはないのです」と彼は語った。
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編集=上田裕資

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