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2024.01.19 13:30

内視鏡AIでがんの見落としをなくす。構築進む世界市場の包囲網

多田智裕|AIメディカルサービス

多田智裕|AIメディカルサービス

Forbes JAPAN2024年1月号の特集「日本の起業家ランキング2024」で9位に輝いたのは、AIメディカルサービスの多田智裕。

「内視鏡AI」で世界中の医療機関との共同研究を続々と推進。トップレベルの技術力で内視鏡医療の発展を目指す。


胃がんをはじめ消化器がんの早期発見を支援する「内視鏡AI」を開発するAIメディカルサービスが、各国を代表する医療機関との共同研究を矢継ぎ早に進めている。2023年には香港中文大学やスタンフォード大学医学部、米国メモリアルスローンケタリングがんセンターなどと新たに契約を締結した。

「欧米やシンガポールで内視鏡医療の学会に参加すると、『論文をずっと読んでいたので(多田氏のことは)知っていた。会えてうれしい』という声をたくさんもらえます。そのため、共同研究の話が進むのも早い」

そう話す代表取締役CEOの多田智裕は、これまでに2万例を超える内視鏡検査を手がけ、現在も月1回のペースで臨床の現場に立つ内視鏡医。17年にAIメディカルサービスを創業すると、18年に胃がん、19年には食道がんを検出するAIの研究開発の成果を世界で初めて発表した。これらの成果は医学論文としてまとめられ、内視鏡AIの分野では世界で最も多く引用された著者として1位になっている。

内視鏡医療はもともと日本がリードしている分野で、現在も消化器内視鏡の世界シェアは日系メーカーが9割以上を占める。その医療水準は世界トップレベルで、「AIの学習に必要なデータは、日本が質・量ともに世界最高」だと多田は言う。東京大学医学部附属病院やがん研有明病院など100以上の医療機関と共同研究体制を構築し、各機関からデータを収集。海外企業がまねるのは難しく、同社の競争力の源泉となっている。

「4K、8Kといった高画質の動画をはじめPB(ペタバイト)級の大規模な内視鏡データを保管するサーバーから解析するツールまでを自社で開発しているのは、世界広しといえど、自分たちだけという自負があります」

21年8月に医療機器として胃がん鑑別AIの薬事承認を申請。多田は「現在、審査は最終段階で、近いうちに認めていただけるものと期待しています」という。同じ領域では、22年9月に富士フイルムが日本初の承認を取得したが、同社の場合は自社製の内視鏡と組み合わせて使うベンダーロックインの仕様。一方、AIメディカルサービスは、メーカーに依存しないマルチベンダー対応型の設計だ。導入しやすいサブスクリプション型の課金モデルや、世界トップレベルの医療機関とのネットワークを優位性として、市場浸透を進めていく青写真を描く。

同社では、内視鏡AIの市場規模が日本で約600億円、世界は数千億円~数兆円と予測している。今後は食道、大腸と対象部位を増やすべく開発を進めながら、「日本と同じく薬事承認の最終段階にある」と見ているシンガポールをはじめ、24年に東南アジア、26年までに欧米での事業化を目指す。

胃がんは早い段階で治療すれば5年生存率が97%以上という統計データがある。一方、現在の人の目による内視鏡検査では、2割程度の消化器がんが見逃されているのが現状だ。「『このAIが世に出ていれば、もっとがんを早く見つけられたかもしれない』と医師の方から言われることも多いのです。一刻も早く、世界の内視鏡医療の発展に貢献できるよう取り組んでいきたい」。

(なお、記事掲載後の2023年12月26日に、AIメディカルサービスは早期胃がんに特化したAI搭載の内視鏡画像診断支援ソフトウェアの製造販売承認を厚生労働大臣より取得。製品の発売は24年3月ごろを予定している。)


多田智裕◎1971年生まれ。東京大学卒。東京大学医学部附属病院などで勤務し、2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業、院長就任。内視鏡検査を年間9000件行う埼玉有数の診療所に。17年にAIメディカルサービスを創業した。

文=加藤智朗 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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