海外新興1800社を集約 日本企業の競争力を取り戻す「FoF」構想

CFOの髙島史(左)とCEOの中村貴樹(撮影=林孝典)

日本の国際競争力は、過去最低の第35位。これは、スイスのビジネススクールである国際経営開発研究所が作成した「世界競争力ランキング2023」で発表されたものだ。
 
「インフラ」「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」の4つの要素からランキングは決定されるが、このうち、特に生産性などから構成される「ビジネスの効率性」を中心に順位を押し下げている。
 
こうした現状を鑑みて、日本の大企業と海外スタートアップの協業を支援することで国内企業の競争力復活を図ろうとしているのが、2022年2月に創業された「Cross Capital(クロスキャピタル)」だ。

ただ、大企業とスタートアップの協業は、失敗に終わるケースも少なくない。スピード感が合わない、新規事業を担う人材がいないなど、その要因はさまざまだ。
 
Cross Capitalは、どのようにそれらの課題を解決し、協業を成功に導こうとしているのか。

LPとVCのハブに

同社が協業の創出に取り組むために採用するのは、オープンイノベーションプラットフォームとしての「Fund of Funds(FoF)」(ファンドオブファンズ)という仕組みだ。これは、ファンドが、出資を行う日本の事業会社(LP)とファンドの提携先である海外ベンチャーキャピタル(VC)、さらにはその投資先のハブとなり、LPと海外スタートアップとの協業を支援するものだ。
 
Cross Capitalは、まずLPの成長戦略や事業課題を理解したうえで、それらに合う海外スタートアップをLPとともに探索する。次にLPから派遣された人材とCross Capitalのハンズオン専門部隊でチームを組成し、共同で協業戦略や事業構想を策定。そこから一気に協業をスタートさせるという流れだ。LPには、このような戦略的リターンに加え、ファンド投資による金融リターン、新規事業人材の育成もできるというメリットがある。


 
国内外で、FoFをオープンイノベーションに応用するケースは一部では存在しているが、Cross Capitalの強みは「ハンズオン支援の専門部隊」を持っていることと、海外の一流VCと戦略的パートナーシップを組んでいる点だ。
 
CEOの中村貴樹(なかむら・たかき)は、シンガポール政府系ファンドTemasek傘下のVertex Holdingsで実際にFoFを運用した経験を持つ。CFOを務める髙島史(たかしま・ふみと)は、約37年間、VCのJAFCOでファンドマネジメントや資金調達を担当した。彼らを筆頭に、Cross Capitalには戦略コンサルティングファームの出身者や、CVC運用やスタートアップ経営などの経験を持つ人材も揃う。

同社は12月にイニシャルクロージングを完了させており、約2800億円の売り上げをもつソフトウェア開発企業の富士ソフトや大手総合電機メーカーがLPとして参画を予定。「最終的には運用総額1億ドル以上のファンドを目指す」という。

「ジャパンブランドの賞味期限は迫っている」

なぜ中村は、恵まれたポジションを捨て、このタイミングでFoFを立ち上げることにしたのか。その理由の1つには、中村の前職時代の経験がある。当時、FoFを基盤として、スタートアップと大企業の協業をハンズオン支援するのが中村の仕事だったが、「日本企業とグローバル企業のオープンイノベーションに対するアプローチや投資の仕方にあまりにも大きな差があった」と振り返る。
 
「ジャパンブランドの賞味期限は迫ってきているんです。ChatGPTなどデジタル技術が急速に浸透するなか、企業が何年もかけて技術やサービスを自前で生み出すというやり方を変えなければ、競争力は維持できなくなる。いま動かないと、世界との間で圧倒的に差が開いてしまうと強烈な危機感を感じました」
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文=露原直人 撮影=林孝典

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