気候変動対策にかかわるスタートアップ。なぜヨーロッパで注目を集めているのか、おすすめ企業とともに宗原智策が解説。
気候変動対策はコストがかかる。誰かがやってくれれば自分たちはやらなくていいし、政府も民間企業も自分ごととしてやることが難しいので進まない。そこで、ヨーロッパはアメとムチを導入して気候変動対策を積極的に進めてきた。
アメの部分では排出権取引を政府が主導して推進し、現在民間によるカーボンクレジットの取引についてもルールの枠組みをつくっている。逆にムチとして使われているのがカーボンプライシング(炭素税)だ。世界で初めて導入したのがフィンランドで、ヨーロッパ勢が導入国の大半を占めている。
気候変動対策に敏感だったのは、もともと天災や災害が少なかったからではないかといわれている。それが近年、異常気象で熱波による死者や洪水被害も起きるようになった。さらに、北極圏に近い地域では気候変動の影響が大きくなりやすく、市民としても肌感覚で「大変なことになっている」という感覚を共有できているのではないか。気候変動は、多様な国々が寄せ集まったヨーロッパをひとつにする錦の御旗でもあるといえる。
ヨーロッパは資源大国ではない。ノルウェーのように一部資源供給国もあるが、ウクライナ危機で露呈したように、多くの国がロシアの天然ガスに依存するエネルギー輸入国だった。地球温暖化といえど、ヨーロッパの冬は死者が出るほど寒い。エネルギー安全保障の観点から見ても、気候変動対策というものがヨーロッパにとって重要だと強く認識されている。
このような背景から、ヨーロッパでは気候変動にかかわるテックビジネスが盛り上がっている。特に、化石燃料に代わる、再生可能エネルギーや原子力エネルギーといったクリーンエネルギーの制御システムや蓄電池は注目度が高い。デジタル社会では欠かせない大量のデータの処理や、AIのような高い計算能力が必要な機械も多くのエネルギーを必要とする。省エネも大事だが、経済活動を極端に減らすような方向性は難しい。クリーンエネルギーを効率的に使うための蓄電器や制御システムは石油に代わるような価値をもちうる。
代替肉や代替プロテインも、温暖化ガスを大量に発生させる畜産業からの脱却のために必要で、ニーズが高まっている。牛のゲップに含まれるメタンガスの発生を抑制させる飼料の開発や、まるで本物のようだけどコストを抑えられる卵白パウダーによって、理想的なプロテインが生まれるかもしれない。
Onego BioやH2 Green Steelなどはすでに日本企業がかかわっている。気候変動のテック企業は、ソフトウェアだけでなく物理的なプロダクトやハードウェアの技術が欠かせない。そういった分野で日本の製造業の技術を生かせる可能性は高いし、日本での今後の広がりも期待できるだろう。