インパクト・エコノミーがけん引する新しい「ポストESG」時代の未来像

(写真中央)渡部克明|ヤマハ発動機(写真右)渋澤 健|シブサワ・アンド・カンパニー(写真左)柏倉美保子|ビル&メリンダ・ゲイツ財団

2021年段階で約155兆円まで拡張している世界のインパクト投資市場。新たな経済社会のあり方である「インパクト・エコノミー」の現在地とは。


「包摂的な資本主義(インクルーシブ・キャピタリズム)」を実現するために今、取り組むべきこととは。グローバルヘルスに貢献する日本企業などの有志団体「グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同」代表でシブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤健、同団体に参画するヤマハ発動機会長の渡部克明、ビル&メリンダ・ゲイツ財団日本常駐代表の柏倉美保子がインパクト・エコノミーやインパクト加重会計がもたらす希望の未来を説く。

渋澤健(以下、渋澤):「インパクト」とは社会や環境への課題解決の意図を指します。「インパクト・エコノミー」はインパクトが実装された経済のことで、企業や投資家が地球規模の社会課題解決と経済成長の両立を目指して事業の創出や投資を行う、新しい経済社会のあり方です。

通常の投資はリスクとリターン、つまり不確実性と収益性の二軸で物事を考えます。そこにインパクトという3つ目の軸を加えて投資を検討する「インパクト投資」を推進することで、資本主義経済が取り残してきた社会課題にきちんと取り組むことができると私は考えています。

柏倉美保子(以下、柏倉):地球社会全体を人体になぞらえると、金融セクターは経済における心臓で、お金の流れは血液の循環です。従来は利益を中心にお金の流れが決まっていましたが、地球社会が持続的であらゆる人類が幸せな人生を送ることができる経済社会にするためには、インパクトという新たな軸を設けて経済社会を社会課題解決モデルへとシフトすることが重要です。

渋澤:インパクトが投資家に浸透し、民間の資金が社会の課題解決に本格動員されるためには社会課題解決の取り組みを数値化し、財務会計に落とし込むことが有力的です。その役割を担う手法のひとつが「インパクト加重会計」です。

1人あたり年間期待収入5〜8%向上

渡部克明(以下、渡部):従来、ヤマハ発動機のような民間企業は財務指標が判断基準になっていました。しかし最近は、投資家や顧客も目先の利益ではなく長期的な企業価値に目を向け始め、社会課題の解決に取り組んでいる会社がいい会社だと判断する目をもちつつあります。

当社は緩速ろ過システムを使った水の浄水装置「クリーンウォーターシステム」を2003年に開発し、安全な水が飲めない国や地域に50基設置しています。この事業には社会的意義がありますが、もうかるものにリソースを集中すべきだという従来型の考えでは、こうした取り組みは続けられません。

そこで、クリーンウォーターシステムについては水くみ時間の削減と下痢の減少に焦点を当て、インパクト評価のためのフレームワークを作成。結果として、同システム導入によって「1人あたりの年間期待収入の視点で約5〜8%の向上が見込まれる」と算出されました。非財務指標を定量化し、金額に換算して示すインパクト加重会計の手法はステークホルダーの理解を得る手段のひとつだと思います。
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文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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