経済・社会

2024.02.09 13:30

インパクト・エコノミーがけん引する新しい「ポストESG」時代の未来像

Forbes JAPAN編集部
渋澤:ESGは、機関投資家が企業に対して「非財務情報を開示してください。ESGに取り組んでいるかどうかは我々が判断します」というものです。主体性は機関投資家側にあります。一方、インパクトの主体性は企業側にあります。これが、インパクトが「ポストESG」といわれるゆえんです。インパクトに関しては、主体性が企業側にあってこそ持続すると私は思います。

23年に開かれた「G7広島サミット」では、グローバルヘルスの解決のために民間から新たな資金を動員することを目指す「グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ」(Triple I for Global Health)が承認され、9月の国連総会のタイミングで正式に設立しました。グローバルヘルスの分野において、人命が救われたことをどのように数値で測り、どのように金額ベースで換算するのか。マルチセクターが知恵を出し合いながらインパクト加重会計の取り組みを加速しています。

ESGに関しては、日本は一周遅れだと指摘する声があります。しかしS(社会)の部分、特にグローバルヘルスの領域を可視化する部分は日本が世界をけん引できると考えています。

柏倉:ESGのE(環境)は、気候変動対策を中心に測定手法が確立しつつあります。一方、Sの測定手法はこれからつくっていく必要があります。あらゆる国や地域の保健医療水準を高めるグローバルヘルスは科学的根拠に基づいたデータやエビデンスを収集・分析しやすく、Sの分野のなかでもメソドロジー(方法)を確立する突破口になりうる領域です。

渡部:当社がインパクト加重会計を取り入れてよかった点は、従業員にも自社の社会貢献活動の価値を明確に伝えることができる点です。私は新入社員に会社紹介をするとき必ずクリーンウォーターの話を入れます。そうすると社員からは「ヤマハがこんな社会貢献活動に取り組んでいることを初めて知った」という声が多く聞かれます。インパクト加重会計は確立された制度ではありませんが、さまざまな企業が複数の領域でインパクトの可視化に取り組み、多くのロジックモデルが発信されることでインパクト加重会計の手法が体系化されると期待します。

渋澤:「三方よし」という言葉もあるように、インパクトの考え方は日本が長年もち続けている価値観のひとつ。しかしグローバル社会に伝わらなかった理由は、可視化に取り組んでこなかったからだと私は思います。具体的な目標を設定し、効果を測定できれば日本の価値観や姿勢をグローバルに展開でき、さらなる企業価値の創出につながると確信しています。


渋澤 健◎シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役、コモンズ投信取締役会長、「グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同」代表。
渡部克明◎ヤマハ発動機会長。
柏倉美保子◎ビル&メリンダ・ゲイツ財団日本常駐代表。

文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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