欧州

2024.02.01

EU拡大の野心が復活 新加盟国候補はあの国

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EU拡大に対する地政学的な議論の先には「拡大の経済的根拠はあるのか、あるとしたら、誰のためのものなのなのか」という、あまり問われることのない疑問が潜んでいます。

EU加盟候補国にとっては、EUに加盟することが経済的に有利であることは明白です。新旧両加盟国にとってのEU拡大のビジネスケースを明らかにするためには、拡大がEUの貿易・成長戦略にどのように適合するかを真剣に分析する必要があります。本題についてWEFのアジェンダからご紹介します。


2004年の「ビッグバン」的な拡大から20年が経過し、欧州連合(EU)が新規加盟国を受け入れるという、長らく停滞していた野心が復活しようとしています。しかし、EUが東の隣国を受け入れるべきだという道徳的、地政学的な主張の向こうには、あまり問われることのない疑問が潜んでいます。拡大の経済的根拠はあるのでしょうか。あるとしたら、誰のためのものなのでしょうか。

加盟候補国にとっては、EUに加盟することが経済的に有利であることは明白です。貿易の結びつきは強化され、金融の安定性が向上し、資本流入が増加し、資本市場が深まり、借入のリスクプレミアムが低下します。また、市場統合により、新規加盟国の株式市場の指数が恒常的に上昇するという研究結果もあります

歴史の教訓

次の拡大がどのような経済効果をもたらすかについての具体的な予測はありませんが、過去から学ぶことはできます。

1994年から2004年までの正式な加盟前プロセスにおいて、新旧加盟国間の貿易は 約3倍、新加盟国間では約5倍に増加しました。中東欧(CEE)諸国は、加盟プロセス開始から2008年まで毎年平均4%の成長を遂げ、加盟プロセス自体がこの成長の半分に貢献し、2002年から2008年の間に300万人の新規雇用を創出したことが明らかになっています。

加盟前のCEE8カ国の所得水準は、EUに比べ平均40%低かったため、拡大により新加盟国から旧加盟国への管理不能な移民労働者の流入につながるとの懸念がありました。

しかし、結果として2004年から2007年の間に移民が旧加盟国の労働年齢人口に与えた累積的影響は、0.37%と控えめなものでした。この影響は、先に門戸を開放した国ほど大きくなります(例えばアイルランドでは、同期間に労働年齢人口が年間1.25%増加しました)。マイナス面としては、新規加盟国からの頭脳流出が著しく、EU域内の地域間格差の深化につながりました。

CEE諸国の一人当たり所得水準はEUの水準に近づいていますが、それでも平均で約20%低く、2004年に加盟した国のほとんどがEU資金の純受給国であることに変わりはありません。これは、現在の候補国の加盟にあたり変えられる必要がある点です。
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文=Mirek Dušek, Managing Director, World Economic Forum; Andrew Caruana Galizia, Deputy Head of Europe and Eurasia, World Economic Forum

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