ウクライナの評価
現在に話を戻すと、新加盟国候補の中で最大かつ最も人口の多いウクライナが、EU経済にどれほどのプラスの影響を与え得るかについては、いくつかのデータが力強く物語っています。一方、拡大による経済的利益がどのように分配されるかについては不確かです。中等・高等教育レベルの教育達成度に関するデータを見ると、ウクライナは、現在のEU全体の平均よりも高い水準にあり、2004年に加盟したCEE8カ国の加盟前をはるかにしのいでいます。
90年代から2000年代初頭にかけて、新加盟国は、安価で教育水準の高い労働力を求める欧州企業の要望に応えるものとして歓迎されましたが、今は状況が異なります。そのため、新たに加盟する国々が有する能力が、今日におけるEUの労働市場の構造的な需要にどのように適合するかを問うことは極めて重要になります。
一方、天然資源に関して言えば、ウクライナはノルウェーに次いで欧州最大のガス埋蔵量を誇っていますが、その大部分は未開発のままです。これが十分に利用されれば、電力生産と産業における石油と石炭の段階的廃止に繋がり、ウクライナは欧州のエネルギー安全保障に大きく貢献するでしょう。
また、ウクライナの農地面積は4250万ヘクタールを超え、主要な輸出収入源として農業に大きく依存しています。ウクライナの小麦生産量は年平均2700万トンで、EU全体の生産量の約20%に相当。トウモロコシの生産量は、EUの5200万トンに対しウクライナは3400万トン、ヒマワリの種子の生産量はEUの約2倍です。
つまり、ヨーロッパの農家は、生産性を向上させる必要に迫られるかもしれませんが、EU全体としては大きな恩恵を受けることになります。
新旧両加盟国にとってのEU拡大のビジネスケースを明らかにするためには、拡大がEUの貿易・成長戦略にどのように適合するかを真剣に分析する必要があります。
この分析は、世論が固まる前に行う必要があるでしょう。過去と同様に、今回のEU拡大もまた物質的な課題を超えた要因によって推進されていますが、その経済的な影響を透明化することで、主要なステークホルダー(企業と個人の双方)を議論に参加させることができるからです。
同時に、拡大の有無にかかわらず、EUが十分に機能するために必要な構造改革から目をそらすことはできません。強力なガバナンス、メディアの自由、透明で民主的な制度といった欧州の価値観は、いくつかの加盟候補国の成功を決定づけた要因でした。しかし同時に、他の加盟候補国が加盟待機国に甘んじたり、加盟後に経済的に停滞したりした理由でもあるのです。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
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