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2024.02.05 11:00

不穏な中東情勢、習近平はイランと中国経済のどちらを守るのか

日下部博一
習近平はこれまで、経済・安全保障上の長期的な目標で妥協することなく、問題をそらしたり戦略的に曖昧にする技術を習得し、協力の恩恵を享受できるような戦術を用いることで、この戦略的対立を乗り切ってきた。最近の米国の空爆とフーシ派の攻撃に対する反応も例外ではない。

この危機が進行するにつれ、フーシ派の攻撃を支援した可能性のあるイランを中国が決然と非難することは期待できないが、中国が危機解決の根本的な障害になることもないだろう。習近平はすでに、紛争の長期化がどれほど事態の悪化を招くかを知っており、特に中国の不動産大手エバーグランデ(恒大集団)の清算が中国経済に疑念を投げかけている。

だが、このような経済的苦境にもかかわらず、中国にとっては中立を装う政治的メリットの方がエネルギー価格上昇の脅威を上回る。これは西側諸国が自国のために危機を解決すると見込んでいるからだ。西側諸国が紅海の危機を緩和するために中国からの援助を得たいのであれば、米国は積極的に中国に協力させるべく、中国がイランとの約束を反故にするような政治的なインセンティブを提供してなければならない。これは言うは易く行うは難しだ。

米国は、危機を深めて中国に経済的な影響が及ぶようにすることで、中国の沈黙の代償を引き上げることができる。これは非常に危険だ。習近平の政治における意思は言うに及ばず、中国経済の規模や影響が及ぶ範囲を考えると、紅海を通る貿易ルートの損失が中国の許容を超えるものになるまでに数カ月かかる可能性がある。その時点で、危機はすでに全世界を巻き込んだ戦争に突入しているかもしれない。このような可能性の低いシナリオでは、米国は自由で開かれた貿易を推進する国としての評判を損ない、大統領選挙の年に自国に犠牲を強いるような戦略を採用しなければならないだろう。これはバイデン大統領にとって自らの首を絞める展開だ。

米国はイランとフーシ派に対して、たとえそれが中国経済を無意識に助けることになろうとも、何も行動を起こさないでいるわけにはいかない。

あまり期待できない考えを挙げると、米国はイエメンにおけるフーシ派との戦いに参加するよう中国に公然と促すべきだ。ほぼ間違いなく中国は拒否するだろうが、国際的な航行の自由を守るという名目で、貿易競争相手に協力を促すことは悪いことではない。中国は海を隔ててイエメン向かいのジブチ近くに軍基地を置いているため、フーシ派との戦闘は兵站という点で実行可能だ。また、作戦への協力は中国が責任ある国際的パートナーであることを示し、一方でイランと中国の間にくさびを打ち込む可能性もある。

中国はイランとの良好な関係の維持に伴う犠牲という点で、もう限界に近づいているのかもしれない。イランの情報筋によると、中国はすでにフーシ派に対する姿勢を強めているという。中東における紛争の激化は、中国がこの地域においては戦略という点で未熟であることを露呈し、経済的利益と地政学的利益が相容れない状況に直面していることを浮き彫りにしている。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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