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2024.02.05

不穏な中東情勢、習近平はイランと中国経済のどちらを守るのか

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1月末に米兵3人が死亡、数十人が負傷したヨルダンにある米軍施設へのドローン(無人機)攻撃に対する報復として、米国はイランが支援する武装勢力を標的に85カ所以上を攻撃した。この報復により、中東地域における紛争拡大のリスクが高まっている。今回の危機が起こる前には、イエメン拠点の親イラン武装組織フーシ派が紅海を航行する商業船舶を攻撃し、それによりサプライチェーンが混乱し、海上保険や輸送コストが上昇、そして世界的な景気後退が危惧された。

世界各国から非難の声が上がる中、中国の沈黙は多くを語っている。表向きには中国と習近平国家主席は完全なポーカーフェイスを装っている。だが、中国が抱える厄介なジレンマは隠せない。世界をリードするという中国の野心を達成するためには、中東での影響力拡大が必要である一方で、同時に中国経済と中国共産党の正当性はイランの好戦的な態度によって脅かされている。

フーシ派の庇護者であるイランは、中国と長らく緊密な関係にあり、それを示す最近の動きとしては、中国がサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介。また、イランは中国主導のBRICSグループ(中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカ)に加盟した。イランが米国から制裁を受けているときでさえ、中国はロシアと同様、イランの指導者を招き、イランの核開発計画に「積極的に参加する」と声明で表明している。イランで抗議デモが急増したとき、中国は「外部勢力によるイラン内政への干渉」に反対する声明を発表した。

過去の中国によるイランへの全面的な支援はなくなりつつあり、イランが支援する勢力は空爆され、イランは公然と米国との戦争を恐れていないと宣言している。フーシ派について、中国外務省は公式に「すべての関係者」は「紛争拡大を避ける」べきだと述べるにとどまっている。西側諸国の「覇権主義的いじめ」の実行に対するいつもの批判を明らかに避けた言い回しだ。

イエメン情勢に関する中国外務省の声明はすべて同様に曖昧で、この記事を掲載する時点では、イエメン危機や米国のイラン勢力への攻撃による経済的・政治的危険性に関する中国外務省の詳細な声明はない。

自制を求めるこうした決まり文句は、中国政府の過去の考えだけでなく、イランに対する最近の責任感のようなものとも矛盾している。この2国間に「制限のないパートナーシップ」を築こうという試みは常に無益だ。習近平はこのことに以前から気づいていた可能性が高い。

米国を敵視しているとはいえ、中国は世界経済を滅茶苦茶にするような激しい暴力や不安定性から利益を得ることはない。中国はシステムを再構築し、そのまま取り込もうとしている。対照的に、イランは現状では自国の計画を前に進めることはできないと考えており、米国や西側諸国と張り合うには弱すぎると理解している。イランは政治的目的を達成するために暴力に頼らざるを得ないが、これは中国の台頭を頓挫させかねない。
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翻訳=溝口慈子

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